EVにマツダが後発で打って出る勝算:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/7 ページ)
マツダが打ち出したEVの考え方は、コンポーネンツを組み替えることによって、ひとつのシステムから、EV、PHV(プラグインハイブリッド)、レンジエクステンダーEV、シリーズ型ハイブリッドなどに発展できるものだ。そして試乗したプロトタイプは、「EVである」ことを特徴とするのではなく、マツダらしさを盛ったスーパーハンドリングEVだった。
テスラのEVとの思想の違い
ここで誤解する人が出そうなのであらかじめ記しておくが、ハンドリングが素晴らしいということは、ハンドルを切るとギュンギュン曲がるということでは決してないし、タイヤからスキール音を立ててドリフトするような世界ではない。
そういう意味での、舵角(だかく)に対しての横起動力(要するにコーナリングパワー)の絶対的強さならむしろテスラの方が上だ(テスラModel 3試乗記事参照)。鼻先を強大な魔法で動かしているのかと思うほど横力が強い。ただテスラの動きはどうにもバーチャルで、操作と結果の関係のその先が読みにくい。とにかくタイヤのグリップ力の支配が強く、どこまでも横力が出てゲーム感を感じる。リアリティが低い。良いか悪いかの話ではない。そういう味であり、クルマと余計なコミュニケーションを取りたくない人にとっては、夾雑物(きょうざぶつ)無しに結果が得られる。
人は機械を操作する時、「予測→操作→反応→補正→操作」という手順を踏む。可能であれば最初の予測値に近く、補正が必要ないほどいい。テスラはそうなっている。ただし一度補正が必要になった時は、補正と結果の関係のリニアリティが必要だ。そこの関係性がテスラのハンドリングにはない。「予測→操作」だけで完結している感じがする。
ドライバーが思っただけ、少し切ったら少しだけ、大きく切れば大きく、クルマには反応して欲しいし、その先がどうなるかを伝えるものであって欲しい。であればこそ、あらゆる速度領域で、随意筋のごとく扱えるクルマになるのだ。この部分の性能がマツダの新型EVは革新的に進歩していた。
もうひとつ明確に違いを感じることがある。それはリヤタイヤの接地感だ。このクルマはモーターによる前輪駆動なので、トルクデリバリーを丁寧にやればフロントの接地感が高まることはよく分かるが、リヤにまで盤石の接地感がある。
昔のレーシングカーで、強力なファン(送風機)を搭載してボディ下面に負圧をかけ、路面に張り付いて走る変わり種があった。これらは「ファンカー」と呼ばれ、シャパラル2JやブラバムBT46などの例があるが、レギュレーションで禁止されてしまった。もちろん筆者はどちらにも乗ったことがないが、クルマの身ごなしは軽いのに重量車のような接地感、しかもそれが4輪全てにおよぶ感じは、ファンカーはきっとこういうフィールだったんだろうと思わせる。
つまり旋回時などに、ボディに働く遠心力とタイヤの接地感の組み合わせが、従来の常識を覆すレベルになっている。
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