50年前から分かっていた少子高齢化問題、なぜ回避できなかったのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
「敬老の日」の昨日、この国の「敬老」の意味をあらためて考えさせられるニュースがあった。65歳以上の高齢者は約3588万人で、全人口に占める割合は28.4%と過去最高となり、これは同じく高齢化が進むイタリアの23%を大きく引き離し、世界一となっているというのだ。
「人口減少」の戦いも惨敗
いかがだろう。昨今政財界で叫ばれる「外国人労働者活用と女性活躍」と丸かぶりではないか。
「男子鉱山労働者が容易に得られざることと、我国においては夫婦共稼の慣習があり女子にして入坑を嫌がらぬものがある」「炭鉱は過去において半島人労役を利用することに深い経験を有している」なんて感じで、現在と同じくさまざまな理屈を並べているものの、とどのつまり頭数が足りないから、確保しやすいところから労働力を引っ張ってくるという話だ。
「一億総活躍」なんて「一億玉砕」のリバイバルのようなスローガンを真顔で言っていることからも分かるように、日本のかじ取りをするおじさんたちの思考回路は、80年前から1ミリも変わっていないのである。
この「人が減ったらとにかく頭数を増やせばいい」というこの思想こそが、実は先の戦争の最大の敗因でもあるといった指摘がある。評論家の山本七平氏だ。自身も幹部候補生少尉としてフィリピン戦線で従軍した経験のある山本氏は、捕虜収容所で兵士たちに何が日本の敗因かと質問をしたところ、ほぼ全員から「員数主義」という言葉が返ってきたという。
これは、日本軍の中でまん延していた考えで、とにかく数が合えば問題なしというもので、逆に言えば、数さえ合えばどんな不正も許された。
この員数主義が日本軍をむしばんでいた。だから、前線で兵士が全滅するようなところでも、とにかく数合わせのように人を送り込んだ。当時の日本のリーダーは戦争を、人の命が失われる殺し合いではなく、「減少したら頭数を増やす戦い」だと錯覚した。だから、玉砕や特攻という人命よりも「相手の数を減らす」ことに重きを置いた施策が生まれてしまったのである。
個人的には、この員数主義が令和日本のリーダーもドップリととらわれていると思っている。労働者が足りない、じゃあ外国人と女性の活用だ。なんなら元気なシニアも働いてくれ――。
こんな調子でいけば、「人口減少」の戦いも先の戦争と同じ結末をたどる可能性が高い。
孫や子どもたちの世代から「どうして令和の日本人たちは、あんなバカな判断をしたのか」なんてあきれられないためにも、いい加減そろそろ「人が減ったらとにかく頭数を増やせばいい」という古い考え方をあらためるべきだ。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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