郵便配達員や窓口担当者を「IT人材」に――日本郵便が取り組む“現場が分かるIT担当”の育て方:不足しているなら育てればいい(2/2 ページ)
不足しているなら育てればいい――。IT未経験者を対象にした日本郵便の「IT人材育成プログラム」とは。
現場視点のIT改善を全社へ
日本郵便がIT人材の社内公募を開始したのは2018年5月。どれだけ募集があるかは未知数だったが、蓋を開けてみると全社から273人もの応募があったという。その中から3回に渡る選考を経て、北は宮城から南は岡山まで、地域も業務経験もさまざまな13人が選ばれた。
それまで郵便配達で地域を走り回っていたり、郵便局の窓口で業務を担っていたり、あるいは法人営業に携わっていたり――と、IT畑とはほぼ縁のなかった13人だが、その全員が、これまで自分なりに創意工夫を凝らして現場で改善を試みた経験の持ち主だ。その改善プロセスをより大きな枠組みで、会社全体に広げたい――という意欲を抱いてチャレンジしている。
というのも、「この公募の情報自体が、局内の掲示板に張り紙として掲示される部署もあった」というほど、日本郵便の業務は非デジタルなものが多くを占めている。紙と電話でのやりとりが中心の仕事も多い中、IT企画部転入者の第一期生らは、うまくITを活用してこうしたアナログな部分を改善し、約40万人に上る局員の多忙な業務を効率化していきたいと考えて応募した人がほとんどだ。
「少ない人数でやりくりしながら頑張ってやってきた」という経験をITにうまく結びつけ、これまで働いていた現場に届けたいと考えている。
時には、ITの世界の業界用語やエンタープライズ特有の難しい専門用語に戸惑うこともあったというが、OJTの中で着実にスキルアップを遂げているという。逆に、IT部門の先輩たちは、自分たちが作ったシステムが“現場でどのように使われているか”を意外と知らないこともあり、彼らの現場経験や実際の使用感が歓迎されることもあるそうだ。
このように、現場の課題やビジネスの課題を肌で知る若手社員がITの知識を身につけ、企画段階からITシステムを作り上げていくことで、日本郵便という会社としてITの主権を取り戻し、受け身のシステムから能動的なシステムへ、守りのITから攻めのITへと変わり、新たなイノベーションの種につながることを、須賀氏らは期待している。
第一期生らは率直に「この先、こういう風に変えていくべきではないか」と議論し、現場とともに日本郵便という会社を良くしていく、そのハブ的な存在、橋渡し役になれればと考えているそうだ。その一人、日本郵便 IT企画部の田中将人氏は、「皆が同じ気持ちで取り組んでいる」と話す。
こうした経験は、個々のメンバーにとっても有益なはずだ。これまでの業務経験や年齢、性格は違うとはいえ、「できないところは皆で成長しようとしている」「比較的ITに詳しいので自分が教えることもあるが、その過程で自身もまた学んでいる」という。
プログラムを立ち上げたIT企画部側も、最初は「大丈夫かな」と思うこともあったが、選ばれた13人がそれぞれにチャレンジしているのを目の当たりにして、想像以上の結果が得られているという手応えがあるそうだ。
「ITのスキルを持っていれば、いろいろなところで活躍でき、今後のキャリアパスを考える上でも有効ですし、もちろん日本郵便としても新しい活躍の場を用意できればと考えています。2019年度以降もこの取り組みを継続していくとすれば、次は彼らが教える立場に立つことになるので、きっと全体のレベルの底上げにつながっていくはずです」(須賀氏)
プログラム開始から1年後の2019年10月には、新たな11人のメンバーが加わったと須賀氏。現場の若い力がこれから、どのように郵便の世界を変えていくのかに注目したい。
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