アジア諸国より企業のIT化が遅れている――DX後進国ニッポンを救う方法とは:若きIT識者3人が鼎談(4/6 ページ)
アジア諸国に比べても、企業のIT化が遅れている日本。そんな日本を変えるにはどんな方法があるのか――。若きIT識者3人が「日本を元気にするためのIT」について存分に語った。
DXで「ITの内製化を進める企業」と「アウトソースの傾向を強める企業」
成田: かつての日本企業のシステム開発は、大半の作業をSIerに任せてしまうのが一般的でした。それが近年になり、事業会社が自らIT人材を確保して、システム開発を内製化する傾向が強くなってきました。
とはいえ、システム開発のプロジェクトは一時的に大量の人的リソースを必要とする場面もありますから、そうした時に、みらいワークスさんのようなところから優秀なフリーランスの方に来ていただけるのはとてもありがたいですね。以前であれば、そのようなやり方で人材を調達することはできませんでしたから。
岡本: かつてのビジネスのやり方は、「大規模で長期間に渡る案件にじっくり腰を据えて取り組むスタイル」が主流でした。しかし、今日のビジネスは、「短期間のうちに成果を出すアジャイル的な進め方」が主流になってきましたから、必要なときに必要なリソースを流動的に確保する必要があります。
その点、旧来のSIerのビジネスモデルは、長期に渡るプロジェクトに社員をアサインすることで成り立っていますから、アジャイル的なビジネスの進め方とはあまり相性が良くないんですね。
成田: まさにおっしゃる通りですね。実際、SIerやコンサルティング会社にちょっとした支援を依頼しても、「ある程度の規模と人月がないと難しいです」と断られてしまうんです。そこでみらいワークスさんのようなところから、機動的に動けるフリーランスの方を紹介していただくことになるわけです。
中野: コンサルティング会社から人を出してもらう場合は、本人のスキルやノウハウがこちらのニーズと合致しないことも多いですしね。そうなると結果的に、発注元のお金で若手コンサルタントの育成を行うはめになってしまう。
成田: 私と岡本さんは、もともと同じ外資系コンサルティング会社でコンサルタントとして働いていましたから、耳が痛い話ですね……。導入を予定しているIT製品のことを全く知らないコンサルタントに、ベンダーのトレーニングを数週間受講させて、それが終わったらすぐお客さんのところへ「あたかもプロです」といった顔で送り込むようなこともままありましたから……。
中野: でも、こっち(受け入れ企業側)は、その製品を長年使い込んでいますから、「お前、実は素人だろう!」とすぐ見抜いてしまうわけです。でも、多くの会社ではそれすら見抜けずに、知らず知らずのうちにコンサルティング会社の若手育成を押し付けられてしまっているんですね。
岡本: クライアント側がそれを見抜けないよう、SIerやコンサルティング会社が仕向けている面もあります。なるべく多くの工数を獲得できるよう、あえて本質的な議論に踏み込まないわけです。これは日本のIT業界の悪しき文化だと思っていて、実はSIer自身もその弊害に蝕まれています。
高いお金をもらってクライアントに言われた通りのことをやっていれば良かったので、「クライアントのビジネスに真に貢献するには、どんな提案をすればいいのか?」という課題意識を持つ習慣が育まれなかったんですね。
私たちが考える「プロフェッショナル人材」とは、「アウトプットで仕事をする人」であって「時間で働く人」ではありません。また、プロフェッショナル人材は「ミッションベースで仕事をする人」であって、「ToDoで仕事をする人」ではありません。こうした考えに立つと、日本のSIerがこれまで行ってきた人月ビジネスは「時間ベースで働く」「ToDo(言われたこと)で仕事をする」わけですから、プロフェッショナル人材とは呼べないのかもしれません。
IT系コンサルティング会社の登場は、こうしたSIビジネスの構造に風穴を開けるという意味では一定の役割を果たしたと思います。ただ、残念ながら、多くのIT系コンサルティング会社が「アウトソースビジネス」という名の下に新たなタイプの人月商売に乗り出して、結局は同じ構造の問題が再現されることになってしまいました。
成田: ただ最近ではデジタル・トランスフォーメーション(DX)の流れを受けて、「ITをアウトソースしていては競争力が付かないから、どんどん内製化しよう」という動きも出てきていますよね。
岡本: そうですね。これを機に経営者が覚悟を決めて、自社でITのプロ人材を雇い入れて自力でDXに挑む企業は、恐らく今後、勝ち残っていけるでしょう。逆に「やっぱり自力では無理だ。アウトソースにしよう」と逆行してしまう企業は、これからは淘汰されていくのではないでしょうか。現在、ほとんどの企業が、この2つのスタンスにどちらかに極端に寄っている気がします。
ただ、こうした状況も、10年後にはかなり変わっているかもしれません。私たち40代は、社会に出て働き始めた当初から普通にPCを使って仕事をしていましたから、もう1世代上の方々と比べると明らかにITリテラシーが上です。この世代が企業の経営に直接関わるようになれば、一気に日本のIT文化は変わるのではないかと期待しています。
ただし、日本企業は海外の企業と比べると、経営者の年齢層が高いですよね。それこそ日本を代表するような大企業の社長に、40代で就任するのが当たり前の時代になれば、状況はかなり変わってくると思うのですが。
中野: 私たち40代は就職氷河期世代ですから、会社に対する忠誠心や帰属意識もほかの世代と比べると希薄ですよね。ですから、人材の流動性という点に関しても、ほかの世代と比べるとかなり柔軟な考え方を持っていると思います。そういう世代が企業のトップに就く時代になれば、確かにいろいろなことが変わってくるでしょうね。
一方、職探しで痛い目に遭った分、「長期的な視座から人材をじっくり育成する」ということにはあまり関心が向かない世代でもあって、そこが弱点なのかもしれません。いずれにせよ、SIerやコンサルティング会社に高いお金を払って何も知らない人間を送り込まれるぐらいなら、新卒を雇って自社内でじっくり育成した方がいいに決まっています。
その上で、どうしても一時的に人手が足りなくなったときは、みらいワークスさんのようなところから優秀なフリーランスの方を紹介していただく。あるいは、極めて高い専門性が求められる分野であれば、その道のプロフェッショナル人材を募ってプロジェクトを組んで、仕事が終わったら解散してまた次の仕事へ行ってもらうというような流動性の高い働き方がもっと一般的になるべきだと思います。
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