SUVが売れる理由、セダンが売れない理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
セダンが売れない。一部の新興国を除いてすでに世界的な潮流になっているが、最初にセダンの没落が始まったのは多分日本だ。そしてセダンに代わったミニバンのマーケットを、現在侵食しているのはSUVだ。
その時、おそらくセダンはまた違うものになる。例えば、欧州ではすでにそれが始まっている。実用車としての価値を失ったセダンに何が残ったかといえばプロトコル性だ。
ちょうどスーツのように、フォーマルあるいはフォーマルに近いTPOで、セダンはマナー的に振る舞うためのクルマとしての機能に特化し始めた。そういうプロトコル性は、ステータスに隣接したものだが、本質的に違う。ステータスは外部評価としての格付けだが、プロトコルはそれを必要とする日常がある人のものだ。
メルセデス・ベンツのCLSから始まったクーペスタイルのセダンは、もうリヤシートの実用性を優先しない。そこを求める人にはミニバンがある。スペースで戦っても勝ち目はない。プロトコルのためのセダンであれば、リヤシートを見切ってでもスタイリッシュな方がいい。ただし2ドアではダメなのだ。4ドアでなければプロトコルにならない。
すでにかつての意味でのセダンは、特に大型のものはもう国内にほぼ存在しない。シートそのもののサイズやスペースが十分でも、リヤシートの乗降性、特に頭とピラーの関係において、スタイルを曲げてまで後席住人をもてなすようなクルマは、先代クラウンを最後に絶滅したに等しい。
むしろ、いまでもクルマにステータスを求める途上国で、高級車として扱われるCセグメントセダンの方がそこはよっぽどしっかりしているのだ。
未来がどうなるかはまだ分からないが、少なくとも今、この瞬間を切り取れば、セダンにはステータスのしがらみがあり、SUVにはそれがない。メーカーはそこからどうやって脱却するかに知恵を絞っているのだろうが、原因はクルマそのものにあるのではなく、社会全体が共有するイメージにある。筆者は、それがセダンとSUVの人気の違いを生んでいるのだと思っている。
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