世界初の乗りもの「DMV」 四国の小さな町は“新しい波”に乗れるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
徳島県が2020年度、世界初のDMV(デュアル・モード・ビークル)による定期営業運行を始める。その舞台は阿佐海岸鉄道だ。沿線にはサーフィンで有名な海岸などもあり、観光の魅力もある。DMVが新たな観光資源になることを期待したい。
不便でも魅力があれば人は集まる
難点があるとすれば、東京からの交通アクセスだ。東京から行く場合、午前7時発の飛行機に乗り、徳島から鉄道を乗り継ぐと甲浦着は昼過ぎ。四国へ行くならと寝台特急「サンライズ瀬戸」で行くと、高松着は午前7時27分だけど、その後の乗り継ぎが不便で甲浦着は午後2時4分。東京から新幹線「のぞみ」で行くと、午前7時半発に乗って甲浦到着は午後4時。移動だけで1日の大半を費やす。ここはJR四国にダイヤ再検討を願いたい。
時間を有意義に使いたいなら夜行バスがいい。徳島に早朝着の便から列車に乗り継げば、甲浦に午前9時半頃の到着だ。値段も安い。海部観光の「マイフローラ」は定員12人の半個室タイプ。豪華設備で料金は1万3000円以上。3列バスの倍以上もするけれど、それでも飛行機や新幹線乗り継ぎよりも安いし乗り換えも少なくて楽だ。
鉄道にこだわらなければ、航空機とレンタカーの組み合わせになる。ダイナミックパッケージのオプションでレンタカーを組み合わせれば合計金額も抑えられる。現地の周遊も楽だ。運転免許を持っていれば、これが最も現実的な手段だろう。
交通が不便でも、現地に魅力があれば人は集まる。冒頭で述べたように、阿佐東線地域の沿岸はサーフィンで人気。特に東洋町の生見海岸は知名度が高く、全国大会が開かれるほか、サーフスポットに関するWebサイトで「初心者にもオススメ」と書かれている。
取材翌日、海岸沿いを歩いていたら、京阪神地域のナンバーを付けた軽自動車を見かけた。屋根にサーフボードを載せ、若い女性が1人で運転していた。鳴門大橋を渡れば大阪は近い。サーファーのみなさんもDMVを面白がってくれるだろうか。逆に、DMVで訪れた人もサーフィンに興味を持ってくれるかもしれない。JR東日本の「手ぶらでスキー」のように「手ぶらでサーフィン」というアピールも必要だろう。
海の幸はもちろん、徳島特産の阿波尾鶏もある。かんきつ類の果樹園、トマトなどのオーガニック栽培もあり、食の楽しみもたっぷり。そんな海沿いの街に、DMVという新たな観光資源が誕生する。日本で唯一、世界でここだけのDMVをどのようにアピールするか。今後の取り組みに注目したい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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