村上世彰が金融教育を通じて伝えたいこと:村上世彰N高特別授業【後編】(3/3 ページ)
会社の研修の一環として「金融教育」を導入する企業が増えている。社員一人ひとりがお金の知識を付け、家計を安定させ、仕事に集中できる環境を作ることが経営課題にもなっている。そんな中、村上世彰氏は自ら金融教育にかかわり、N高投資部での講義に取り組んでいる。村上氏が高校生に金融教育をする背景、若い時からお金と向き合う意義に迫るとともに授業の内容もお届けする。
企業は資産効率のいい経営に変えるべき
――売上や利益と、株価との関係は、どのように見ればいいですか。
利益に対してどれだけの時価総額があるか、というのはPER(株価収益率、計算方法は時価総額÷純利益=株価収益率)が何倍かで見ます。日本の株は、平均のPERが12〜15。ということは、利益の12倍から15倍が時価総額というのが、一般的だということです。
もう一つ、有名な指標では、PBR(株価純資産倍率)といって、時価総額を純資産で割り算する指標があります。本を読むと、そういうものが結構出てきます。日本の平均PBRは米国の半分以下です。基本的に米国のほうが純資産に対しての株価が高い。これは何でだと思います? 何で米国のほうが、株価は高いのだろう?
――内部留保が少ないから。
よく勉強しているね。正解です。資産効率がいいんです。純資産に対してうまく資産を使って利益を出せている。日本企業もそうした経営に変えるべきだと僕は20年以上ずーっと言い続けています。手元に資金を必要以上に貯(た)めこまないで、設備投資をしたり、もっと株主に還元したりしなきゃダメだよって言い続けているわけです。資金が社会の中をぐるぐる回らないと、経済が成長しないんです。
話は戻りますが、基本的なファンダメンタルも含めて、どういう状況になっているのかを見極めながら投資していくのが、僕はすごく勉強になると思います。海外の企業とどういう提携をしているかとか、海外の情勢の変化とかも合わせて見てほしい。
最近よくニュースにも出ているけど、中国との関係がどうなるか、いま政府が韓国に何らかの規制をしたらどうなるのかとか、いろいろなことを考えてみる。それが株価にどんな影響が出るんだろう、と考え出すと、すごく面白い。
その後、自分の想定通りになったか、ならなかったら何でならなかったのかを考える。そういうことを株を通じてやってみてもらいたいと思っています。
村上氏が明かす「投資授業をする狙い」
最後に、僕から言いたいことがあります。今回の国会の争点は2000万円の年金だと言う人もいますが、それはちょっと違うのではないかと思います。もちろん、人にはいろいろな事情があるから、国もある程度のセーフティネットをきっちり張ってあげる必要はあります。でも、お金というのは基本的に自分で触れ合って、将来のことを踏まえて考えるものです。今回の投資体験が皆さんにとって「お金としっかり向き合う」きっかけになってくれることを願っています。
ある人との出会いがあって、今、僕はホームレスの人たちを支援する仕組みについて、いろいろ考えています。その人が言うには、ホームレスの人たちが一番つらいのは、物理的な家がないことよりも、社会とのつながりや心のよりどころがないことなんだと。東京ではどんどん少なくなってはいるんだけど、ホームレスの人たちが、社会との絆を持ちながら、何らかの仕事をして幸せになるような国のセーフティネットの在り方があると思っています。みんなが幸せになれるような国になってほしい。
こうした問題の一番の要因は、学校教育として「お金の教育」を侮ったことなんじゃないかと考えています。深くお金について考えず過ごしたまま60歳になって、「老後のお金が足りない」と嘆くよりも、若いころからお金について真剣に考えていくことで、お金がいっぱいあってもなくても、幸せな人生を過ごす方法はあると思う。
自分が幸せに生きるためにどのくらいお金が必要なのか、それをどうやって確保するのか。自分の頭で考えながらお金を増やす能力を育むことも重要です。一方で「投資なんかやっちゃいけない」と心から思う人もいると思う。それも重要なことです。人ぞれぞれで、向き不向きもあるから。でもそれはやってみないと分からない。
だから、お金について、早い段階で実際に触れ合って向き合ってもらうほうが絶対にいいと信じて、僕はこうした授業や投資体験を提供するプロジェクトをやっています。短期的に「勝った負けた」ということよりも、「お金の投資をしたらいろいろ学べたな」と、来年3月に思ってもらうことが僕にとっては一番ありがたい。ということで、ぜひいろいろと考えてもらって、この機会を有効に活用してくれたらとてもうれしいです。
今日はどうもありがとうございました。
金融教育を取り入れる意義を再考せよ
以上が村上氏の授業内容だ。同氏は高校生の投資体験を通して、単なる投資の技術ではなく、現実社会や経済を学ぶ手法を伝えている。だが、金融教育が重要であることは高校生に限った話ではない。社会人になっても、金融業界などに就職しない限り、お金や金融のことを学ぶ機会は非常に限られている。企業の経営者にとっては、従業員の生産性を高め、自立を促す金融教育を研修などによって取り入れる意義がありそうだ。
著者プロフィール
河嶌太郎(かわしま たろう)
1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。アニメコンテンツなどを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「週刊朝日」「AERA dot.」「DANRO」「Yahoo!ニュース個人」など雑誌・ウェブで執筆。ふるさと納税、アニメ、ゲーム、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。共著に『コンテンツツーリズム研究〔増補改訂版〕 アニメ・マンガ・ゲームと観光・文化・社会』(福村出版)など。
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