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マツダのEVは何が新しいのか?(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

「MX-30は魂動デザインなのか?」。答えはYesだが、第7世代の陰影デザインは、MX-30には緊張感がありすぎる。そこでさらに「陰影」自体も取り去った。そこに残ったのは優しくて健全なある種の健康優良児のような姿だった。

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2つの世界線に共存する魂動デザイン

 全体としてはとても穏やかで大らかなデザインとなっている。以前前田氏に、マツダのデザインには「癒やし」の要素がありませんねぇと言ったことがあるが、今回のMX-30を見ると、ここには明らかに癒やしの要素がある。

 どうしてこういうデザインになったのかを前田氏に尋ねると、「これまでの魂動デザインはとにかく求心的に純化する方向へ進んでいましたが、一度そこを離れて、外へ広げて行くことを試しています。それによって魂動デザインに幅が出ていくのです」と答えた。

 つまりMX-30のデザインは、一連の魂動デザインにとって差し色の役割を果たすもので、補完的立ち位置にあるものだといえる。同じ引き算の中で、緊張感と陰影を強烈な個性として際立たせる翳のデザインと、ニュートラルで自然な立ち位置を示す光のデザイン。それは鏡の向こうとこちらに分かれた、平行世界の2つの魂動デザインだといえるだろう。

 面白いのは、MX-30のデザインには工業製品としての圧倒的な明るさがあることだ。初代デミオのように日差しが燦々と降り注ぐようなこういうデザインは、しばらくマツダにはなかった。これもマツダである。


MX-30のインテリア

 インテリアは基本的にはCX-30あるいはMazda3と同一線上にあるものだが、センターコンソールの作りを変えてある。コンソールを空中に浮かんだように見せる手法が取られており、従来にない開放感が存在する。また、二段構えになったコンソールの下段は、コルクが用いられている。マツダの前身である東洋工業創立時はコルクの製造会社だった。そこをフィーチャーした素材選びは面白い。また素材に関しては、ドア回りのトリムにリサイクル繊維を用いた、テキスタイルを使うほか、シート表皮も天然繊維のイメージが生かされるなど、EVの本領であるエコを随所にイメージしたものになっている。

 さてMX-30が大ヒットすることは難しいかもしれない。いずれにせよEVは今のところ、個人所有に向けては時期尚早感が拭えない。しかしそれを少しでも軽減し、かつ脱化石燃料とCO2削減に真面目に取り組んだマツダの姿勢は、立派だと思う。しかも乗って楽しい。

 より多くの人が、実際にこのマツダのEVに触れて、試してみる機会があれば良いと心から思うのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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