首里城の被害を拡大させたのは「安すぎる入場料」だと考える、これだけの理由:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
沖縄の「宝」である首里城が消失した。ネット上には「管理をしていた沖縄県が悪い」といった指摘があるが、本当にそうなのか。甚大な被害を招いた原因を探っていくと……。
入場料収入が潤沢であれば
沖縄美ら海水族館と首里城の管理が国から県に移ったことを報じた今年2月9日の「琉球新報」には、国が所有するこの2つの施設の使用料財源を「両施設の入場料と売店収入で賄うため、県の財源からの支出はない」としている。つまり、これらの施設は入場料などにかなり依存しているということだ。
入場料収入がそれなりに潤沢であれば、使用料だけではなく首里城の管理や保全に回せたので、お粗末な防火設備もちょっとはマシになっていた。そのような意味では、あの惨状を招いたのは、「安すぎる入場料」のせいという側面もあるのだ。
「問題はそんな単純ではない」という意見もあるかもしれないが、「カネ」が問題ではなかったとすると、この首里城公園を長く管理してきた、内閣府沖縄総合事務局国営沖縄記念公園事務所、独立行政法人都市再生機構九州公園事務所の「怠慢」ということになってしまう。
首里城公園は年間280万人が利用して、今回焼失した「有料区域」にも年間180万人が訪れる。これはサンリオピューロランドの年間利用者数とほぼ同じ。そんな「観光施設」になぜスプリンクラーをつくらなかったのか、という安全意識の乏しさを糾弾されて然るべしなのだ。
と言うと、「木造建築にスプリンクラーが現実的に難しい」なんて、とにかく「何も対策しなかった」ことを正当化しようとする方たちが出てくるが、首里城よりも年間入場者数が少ない姫路城は、屋内外消火栓、消火器、火災報知機はもちろん、スプリンクラーも天守群だけでなんと1000カ所以上設置されている。
もちろん、これだけの設備を国宝、しかも世界遺産にも指定されている巨大木造建築に行うことに否定的な意見もあったが、管理者の姫路市は踏み切った。姫路城管理事務所の担当者によると、「城の出入り口が1カ所しかなく、中の階段も急勾配で、繁忙期には800〜1000人が滞在するため、消防活動がしづらいと判断した」(夕刊フジ 2019年11月3日)という。
文化財にスプリンクラー設置の法的義務がないうんぬん以前に、これだけ多くの観光客が訪れる施設の管理者として当然なすべき「安全対策」だというわけだ。
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