首里城の被害を拡大させたのは「安すぎる入場料」だと考える、これだけの理由:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
沖縄の「宝」である首里城が消失した。ネット上には「管理をしていた沖縄県が悪い」といった指摘があるが、本当にそうなのか。甚大な被害を招いた原因を探っていくと……。
悪意のない文化破壊
今回の火災を受けて、「こういうリスクもあるので、文化財の中を開放したり、イベントで貸し切らせたりするのは慎重になるべき」という意見が出てきているが、それはまったくの逆で、今回のような火災をさらに増やすことにしかならない。
首里城のような施設や、文化財を矢印に沿って見学するだけのお勉強の場にすると当然、利用者は減っていく。刺激的な異文化体験をしたいと訪れる外国人観光客は退屈だし、日本人も一部の歴史好きや、文化財めぐりが好きなシニアしか楽しめないからだ。
人口減少で入場料収入は年を追うごとに減っていく。人口減少で税収が減っていく中でも、年金、医療、福祉、老朽化したインフラに優先的にカネをつぎ込まなくてはいけないが、首里城や文化財という「ぜいたく品」に多くの公金を入れない。
すると、どうなるかというと、設備がボロくなる。歴史的な建造物の補修もおざなりになる。そして、最後は、防火設備や耐震という「目に見えない安全対策」がガッツリと削られるというわけだ。
このあたりは、2000万点の貴重な収蔵品が焼失したブラジルのリオデジャネイロで発生した国立博物館の火災が分かりやすい。リオ五輪で無理につぎ込んだインフラ投資が引き起こした不況で財政がボロボロになって、博物館周辺の消火設備のメンテナンスにカネが回らなかず火災時に使えず、そのために消火が遅れてしまったのだ。
今回の首里城焼失はこの地球の裏側で起きた財政難による文化財焼失と丸かぶりだ。日本人は自分たちの国は、ブラジルよりも「豊か」だという自負があるのでなかなか認めたがらないが、本質はまったく変わらない。
「低すぎる入館料」は一見、「文化や歴史を誰でも気軽に学べて素晴らしい」という状況をつくっているように見えるが、長い目で見れば、その文化や歴史を内側からガタガタにしてしまっているのだ。
この「悪意のない文化破壊」を見ていて、ずっと何かに似ているなとずっと考えていたのだが、最近それが何かようやく分かった。日本の低賃金労働だ。
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