アマゾン「置き配」の衝撃 「お客様が神様で無くなった世界」で起こり得る“格差問題”:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
配達員が荷物をユーザーの指定場所に置く「置き配」。アマゾンジャパンが標準配達方法にする実験を実施した。筆者はユーザー間で一種の「格差」が生じる可能性を指摘。
不利益受けると「クレーマー化」する日本人
結局のところ日本人の多くは、自分に利害関係がない時には「お客様は神様ではない」「利用者は謙虚になるべきだ」ともっともらしい主張をするのだが、自分に不利益が発生すると、人格が豹変しクレーマーになってしまう。
アマゾンがどこまで置き配を標準形にするのかは実証実験の結果次第だが、筆者は最終的に、積極的に置き配を選択する利用者と、置き配を望まない利用者に二極化すると見ている。置き配を積極的に選択する利用者は、一定のリスクを織り込んでいるだろうし、荷物の置き場所に工夫を凝らすなど知恵を絞っている人も多い。このためトラブルも少なく、利用者と事業者が共にメリットを享受できる。
だが置き配に否定的な利用者の場合、何かトラブルがあればクレームにつながりやすく、自身で置き配をスムーズにするような工夫もしないので、トラブルの発生頻度も高くなる。事業者にとっては、あまり付き合いたくない顧客ということになるだろう。
そうなってくると、アマゾンのような事業者は、置き配に積極的でトラブルが少ない利用者の優遇を強化する可能性が高い。場合によっては価格やポイント、各種キャンペーンでの優遇に差をつけることも十分に考えられる。
置き配をフル活用できる利用者は、時間を有効に使えるので、自身の生活も効率化され、しかもリーズナブルに商品を購入できる。一方、そうでない利用者は時間が有効に使えず、高い買い物を強いられてしまう。置き配の普及は、一種の経済的、社会的な格差すら引き起す可能性があると筆者は見ている。
筆者自身は、「お客様は神様である」という言葉はあまり好きではないが、消費者はそれなりに事業者に要求してもよいと考えている。だが、利用者は謙虚であるべきという今の日本社会の声が正しいものであるならば、置き配を選択しない利用者が不利に扱われることに不満を言うのは、アンフェアということになるだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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