ヤリスとトヨタのとんでもない総合力:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/8 ページ)
これまで、Bセグメントで何を買うかと聞かれたら、マツダ・デミオ(Mazda2)かスズキ・スイフトと答えてきたし、正直なところそれ以外は多少の差はあれど「止めておいたら?」という水準だった。しかしその中でもトヨタはどん尻を争う体たらくだったのだ。しかし、「もっといいクルマ」の掛け声の下、心を入れ替えたトヨタが本気で作ったTNGAになったヤリスは、出来のレベルが別物だ。
パワートレーンも違う。かつてのトヨタ製HV(ハイブリッド)はとにかくドライバーのいうことを聞かないヤツで、アクセルを踏んでも加速しないし、アクセルを緩めても減速しない。コンピューターという現場監督が勝手に判断して、ドライバーのいうことを無視してまで燃費を稼ぎだそうとする。
しかしそれは、リアルな交通の中で他のクルマの動きまで配慮した総合的な見通しや判断ではなく、結局過度なアクセルペダルの踏み込みを招いたり、ブレーキによる急減速を招いたりして、実走燃費には大して貢献しない。しかもトヨタが圧倒的にHVのシェアを独占していたから、「HVとはそういうもの」というイメージを付けてしまった。
だから、世の中には「ドライバーに主権のないHVは大嫌い」という人がたくさん生まれた。筆者もその一人だった。それが変わったのは現行プリウスの登場からで、特にカムリの2.5HVユニットが登場して以来、世界的にダメなパワートレーンの代表だったHVは、勇躍ベストパワートレーンのひとつに躍り出た。
そりゃそうだ。本来であれば、エンジンが不得意な低速域で本領を発揮する、レスポンスに優れたモーターが加わっているのだ。エンジンと良好な補完関係を築いて働けば、エンジン単体より良くなって当たり前。理論的にはごく常識的なことなのだ。そうならなかったのは、トヨタのリファレンスがおかしかったからだ。「とにかく燃費」にリソースを全振りした結果、ドライバビリティはこれ以上削りようがないほどパラメーターを削られていた。そこを徹底的に改めて、しかるべきバランスが与えられれば、喝采を浴びるにふさわしい能力を発揮する。
ちなみにヤリスのパワートレーンは、1.5HVのほかに、1.5NA+CVT or MT、それに1.0NA+CVTの4バリエーションが用意される。駆動はFFを基本に、非HV用のコンベンショナルな四駆、さらに1.5HVにはリヤをモーター駆動するE-Fourが加わる(しかもリヤ駆動モーターをマウントする都合で、これだけリヤサスがダブルウィッシュボーン)。
1.0と非HV四駆を除いて全て乗ったが、少なくともサーキットで乗る限りにおいて多少の個性差はあれど、どれも良かった。特にE-Fourは上質感と安心感と絶対速度という全てが高レベルにあり、新時代トヨタの走りを代表するものに育っていくポテンシャルを感じた。さて、ヤリスの全体像を極めて短く要約すると、しっかりしたシャシーと、追随性に優れたパワートレーンが与えられたということだ。
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