人気なのに「地元から出ない」名古屋めしの名店 共通点は“売り上げ構造”:名古屋めしビジネス「勝ち」の理由(4/4 ページ)
名古屋圏以外に出店しない、地元密着を貫く名古屋めし企業の共通点とは何か。新しいものを取り入れながらも、「地に足を着けた経営」を続けている。「ここでしか食べられない」という価値だけでなく、まずは地元の人に愛されることが基本のようだ。
非観光地だからこそ、地に足を着けた経営
ひつまぶし、みそ煮込みうどん、きしめんといった伝統的な料理の代表的な店舗が、観光客を中心に新規客を獲得して業績を伸ばしていることからも、名古屋めしビジネス全体の活況ぶりがうかがえる。と同時に、これらのトップブランドが品質のクオリティーを第一に考えて、店舗展開に慎重なところにも、名古屋企業らしい堅実さが表れている。
名古屋企業や名古屋人のこうした姿勢や気質は「石橋をたたいても渡らない」と評されることも多い。だが、近年トレンドビジネス化の傾向が強く、スクラップ&ビルドを前提とした業態開発や出店が少なくない外食シーンの中にあって、このような地に足を着けた姿勢はむしろ貴重ともいえる。
各企業のこのような姿勢の背景には、名古屋がもともと観光地ではなかったことがある。近年でこそ、名古屋市が観光地としてのブランド戦略に力を入れ、ここ10年で観光客はおよそ1.5倍にも増えているが(06年3074万人→17年4734万人/名古屋市観光客・宿泊客動向調査)、それでも国内の名だたる都市にはまだまだ及ばない。そんな土地柄にあって、名古屋めし企業の多くが、あくまで地元の消費者をメインターゲットとして手堅い商売を続けてきた。先の3社にしても、観光客が増えたとはいえ、各社とも地元客が7割と依然、地域での支持は根強い。
地域密着にこだわる理由を山本屋本店はこのように説明する。
「リージョナルストアの強みを生かして、名古屋に来ないと食べられない付加価値で腰をすえて商品を提供している。地元以外の多くのお客さまにも召し上がっていただきたいが、品質を落とすことなくいいものを提供する、鮮度第一だと考えている」
名古屋めしを代表する各ジャンルの老舗が、ご当地グルメにふさわしい地元優先の姿勢を打ち出し、何より地域で長く愛されている。これこそが名古屋めしビジネスの地力の強さといえるのではないだろうか。
著者プロフィール
大竹敏之
名古屋在住の自称「名古屋ネタライター」。新聞、雑誌、Webなどに名古屋情報を発信する。『名古屋の喫茶店完全版』『名古屋めし』(リベラル社)、『なごやじまん』(ぴあ)など、名古屋の食や文化に関する著作多数。最新刊『名古屋の酒場』(リベラル社)が11月中旬発行予定。
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