藤原副社長、ラージプラットフォーム投入が遅れる理由を教えてください:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
マツダの藤原清志副社長のインタビュー、第2弾はラージプラットフォーム投入が遅れる理由だ。なぜマツダが直6エンジンを使った新らしいラージプラットフォームを開発するのかを振り返り、その遅れの理由、そして遅れたことで空く穴をどう塞ぐのかを解説する。
マツダが北米マーケットをなぜそれほど重視するかについて藤原副社長は非常に興味深い説明をしてくれた。
「例えばリーマンショックみたいなのがどーんときたとしても、2年後には必ず戻ります。あのアメリカっていう国はものすごい懐が深いです。だから米国でビジネスを成功させない限りダメだっていうのが、私たちの思っていることなんです」
つまり北米マーケットは極めて安定性が高い。特に大きな不況からの復元力が、世界的に見ても例を見ない水準にあるとマツダは見ている。少し前までマツダは、世界でのマーケットバランスが均等だった。日本、北米、欧州、中国、アジア/オセアニアが均等に20%。筆者はそれをポジティブに受け止めて来たのだが、当事者としては必ずしもそうではないらしい。昨今、欧州と中国の景気後退リスクが大きく高まっている状態を背景に、マツダほどの規模の会社が、今どこに力を入れるかを考えれば、それは自ずと安定性が高いマーケットになる。それは北米なのだ。
始めに6気筒があった
そしてその北米で4気筒では商品価値を訴求し難いとしたら、マツダはどういうパワートレインを開発すべきなのか? 筆者は当初V6だろうと予測した。旧世代ユニットではあるが、マツダはV6を持っている。これを新世代に置き換えるのだろうと考えるのは自然だ。
しかし、2年前の東京モーターショーで藤原専務(当時)に非常に面白いヒントをもらった。当時出品されていた『VISION COUPE』についての取材中、筆者は関係者の発言をつなぎ合わせ、市販化計画があることを嗅ぎ当てた。しかしあれだけの堂々としたクーペに直4では商品にならない。ボディーシェープを見れば、明らかにFRの形だ。とすればV6か直6か、答えなんて返ってこないだろうと思ってぶつけた質問に、藤原専務はこう答えた。
「Vだと基礎実験をやり直さないといけないですよねぇ」
その一言で言いたいことは分かった。マツダの改革の中心にあるMBD(モデルベースド・デベロップメント)、つまりコンピューターシミュレーションによる数理モデル化設計では、エンジンの特性を制約する重要な要素の基礎特性をそろえることが絶対条件だ。燃焼室容積と吸気系全体の容量比率、スロットルバルブから吸気弁までの気体到達の速さ、エアフローメーターへの空気の当たり方。それらをすべてのエンジンで同じにそろえないと、同じ数理モデルを使った燃焼が再現できない。できなければもう一度基礎実験からやり直しということになる。
V型と直列ではそういう特性が違ってしまうから、今のSKYACTIVテクノロジーの延長に多気筒エンジンを描くとしたらそれは直6しかない。ましてやSKYACTIV-Xに注ぎ込んだ膨大な研究開発費を、V6化のために再投資するのは現実的ではない。だからそれらが全部生かせる直6以外にあり得ない。それだけの意味を藤原専務は短い言葉に込めたのだ。
かくして、マツダの未来には、北米マーケットが他より優先度が高く、北米での商品性を上げるためには多気筒化が必須。そしてマツダの都合上もそれはSKYACTIV-X の直列6気筒モデルになり、そのエンジンを積むのであれば、シャシーは当然FRの方が親和性が高い。というストーリーができ上がる。
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