東大研究者が一本釣り漁師に転身 衰退著しい漁業を盛り上げるブルーツーリズムとは:地域ビジネス、ここがカギ(1/4 ページ)
東大大学院の研究者から転身した漁師、銭本慧さん。長崎県の対馬で会社を立ち上げ、鮮魚を東京のレストランなどに直販する。日本の水産業の衰退を肌で感じ、“資源を守る”漁業を実践。将来的には漁業を核にした観光産業、ブルーツーリズムによる活性化を描く。
地域ビジネス、ここがカギ
地域経済の活性化を目指して、各地域固有の強みを生かす取り組みが進んでいる。しかし、企業や個人の努力だけが成否を分ける要因ではない。人口減少が進む中で、制度化や連携は欠かせない。地域活性化の成否を左右するキーワードに迫る。
東京大学大学院の研究者から転身した、異色の一本釣り漁師がいる。大阪府生まれの35歳、銭本慧(ぜにもと・けい)さんだ。東大大学院の博士課程で海洋研究に取り組んでいたが、一念発起して漁師になった。
ただし、魚をとるだけではない。長崎県の離島「対馬」でとれた鮮魚を都内のレストランなどに直販するスタートアップ企業の経営者でもある。血抜きなど、鮮度を維持する技術が評価され、第一線で活躍する東京都内のシェフらも厚い信頼を寄せている。
そんな銭本さんが見据えるのは、日本の水産業の再生、そして、漁業を核にした観光産業「ブルーツーリズム」による地域活性化だ。
釣り好きが高じて水産学部に
きっかけは、少年時代から大好きな釣りを続けたいという素朴な思いだった。両親が寝静まったのを見計らって、夜な夜な海釣りに出かけた中高生時代。志望大学も「釣ったことのない魚がいる場所に」という思いから、長崎大学水産学部を選んだ。在学中、日本の川から泳ぎ出て、何千キロも南方の海で産卵するウナギの生態に魅せられた。詳しく研究するため、東大大気海洋研究所に進んだ。
しかし、水産研究を進めるうちに、衰退傾向にある日本の水産業に強い危機感を抱くようになり、「自分でも何か直接行動できないか」と考えるようになった。研究ばかりの生活にも行き詰まりを感じ、「水産資源が減少する理由を解明するより、減った資源を増やす方が重要では」との思いが募った。
「研究室にこもるより、釣りを存分にできる現場で生きていきたい。そうだ、漁師になろう」
釣り好きが高じて研究者への道を選んだが、初心に立ち返って人生を考え直した結果、好きな魚釣りで暮らしていく道を選んだのだ。
でも、いったいどこで、どうやって? 九州各地の漁港を訪ね歩き、ほれ込んだのは長崎県対馬市北西部の志多留地区。かつて民俗学者の宮本常一が調査した場所としても知られ、古代からの景観や風俗が残る自然豊かな地域だ。「いなサバ」としてブランド化を図っているマサバのおいしさと大きさにも感動し、「高級食材として販路開拓できるのでは」と夢を描いた。
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