ワタミは本当に「ホワイト化」したのか? 「ブラック企業批判」を否定し続けてきた“黒歴史”を振り返る:「最強の組織」が陥った罠(3/4 ページ)
創業者である渡邉美樹氏が10月1日、ワタミに復帰。復帰会見では離職率の低下など、「ホワイト企業化」が宣言された。「ブラック企業」と批判され続けてきたワタミだが、本当に環境はよくなったのか。ブラック企業アナリストの新田龍氏が3回にわたり、ワタミの過去を振り返るとともに現状を検証する。
ワタミだけが「ブラック企業」として名を轟かせ続ける理由
1企業に対して何らかのネガティブな評判が立っても、また新たなニュースが入れば通常は忘れ去られるものだ。しかしワタミにおいては、08年ごろから現在に至るまで、10年以上にわたって「ブラック企業の代名詞」的な扱いを受けてしまっている。もっと悪質な法律違反や、不幸にも過労死が起きてしまった企業がその後も多数報道されているにも関わらず、だ。その構造は、ワタミという会社が急成長し、渡邉が広く知られる著名人となったという一見名誉なことに起因する。
ワタミは短期間で急成長し、渡邉が創業時に公言した目標通り、創業10年での株式公開を成し遂げ、13年時点では全都道府県へ出店していた。全国的にも認知度が高く、当然ながら相応に幅広い世代が店舗を利用したり、少なくとも看板を目にしたりする機会は多かっただろう。それだけの“共通言語”があったがゆえに、話題となり、噂も広がりやすくなってしまったのだ。これが名前も知らない地方の1企業なら、いくらニュースで報道されても「何それ? 知らない」で済まされていたはずだ。
同時に渡邉はメディア出演機会も多く、多くの人が名前を知り、顔を思い浮かべることができる状態であった。実際、過労自殺事件が起こって同社のブラック的な面が大々的に報道される前まで、渡邉は実業界や起業を目指す若者の間では「一代で外食・介護大手のワタミグループを築き上げた立志伝中の人物」であり、「発展途上国の子どもたちへの教育支援活動を熱心に行う篤志家」としてポジティブに認識されていた。日本経団連理事、教育再生会議委員、そして参議院議員まで歴任し、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍していた。
そのようにポジティブなイメージだったところから、急転直下でネガティブに落ちていくという展開だったことでメディアでは衝撃的なスキャンダルとして大々的に扱われ、人々の記憶にも残りやすくなった、という面も大きい。しかも、ブラック企業批判が高まった10年ごろから渡邉は政治家=公人として活動をし始めており、メディアも遠慮なく実名で批判できたという背景も重なっていた。
関連記事
- 「テーマは命」 渡邉美樹氏がワタミ代表に復帰 “目玉政策”は被災地に開く農業テーマパーク
ワタミが陸前高田市に農業テーマパークを開設する。農園やエネルギー事業などノウハウを結集し6次産業モデルを展開する。ワタミの代表取締役に復帰した渡邉美樹氏はこれまで復興に携わってきたが、まだまだ不十分だと考えているようだ。オープンは21年3月を予定し、年間35万人の来場を見込む。 - ドトール、休日減らして「有給奨励日」に 有給取得の“水増し”に厚生労働省「望ましくない」
4月から企業に義務付けられた従業員の有給取得。年間10日以上付与されている人について、5日以上取得させる必要がある。こうした中で、ドトールコーヒーがもともと休日だった日を出勤日にした上で「有給奨励日」に。理由については「改元などで祝日が多くなり、調整する必要が生じた」とコメントしている。働き方改革に逆行する取り組みを、厚生労働省はどう受け止めているのか? - 「給与を上げれば退職者は減る」は本当か 経営層の考える「退職対策」と現場の乖離(かいり)が明らかに
「給与を上げれば退職者が減る」と考える会社役員は多い。しかし、給与の上昇は本当に退職率を下げる効果はあるのだろうか。トランスの行った調査で役員層と従業員の意識の違いが明らかになった。 - 卸売会社の3代目社長は、なぜ「うんこ」へ舵を切ったのか
神奈川県にある「株式会社うんこ」をご存じだろうか。悪ふざけではなく、実際に存在する会社だ。Webサイトを見てみると、うんこスーツやうんこスニーカーなど、幅広いうんこグッズを販売している。5月に行ったクラウドファンディングでは、達成率が500%超。270万円ほどの資金が集まった。いったい、どんな会社なのか。 - 同一労働・同一賃金の衝撃 大企業は本当に「非正規社員を救う」のか
ベテラン人事ジャーナリストの溝上憲文が、人事に関する「経営者が対応すべき施策」を提言する。今回は施行までいよいよ半年を切った「パートタイム・有期雇用労働法」について。同法は、同一労働同一賃金の規定を盛り込んでいるが、正社員と非正社員の待遇差を解消しようとすれば、これまで低い賃金で使ってきた非正社員の賃金を上げざるを得ない。ということは、経営者は空前の「コスト増」に苦しむことになるが……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.