高橋名人が明かす「裏技」誕生秘話 私が「冒険島」になった理由:高橋名人の仕事哲学【中編】(6/6 ページ)
かつて「名人」と呼ばれた男がいたことを覚えているだろうか――。ハドソンの広報・宣伝マンを務め、「16連射」で名高い高橋名人だ。在職中は「名人」として全国各地を渡り歩き、テレビゲームの普及活動に務めただけでなく、「裏技」「ゲームは1日1時間」という言葉の考案者の一人でもある。中編では、いかにしてファミコンの「名人」になったのか、「裏技」という言葉はどうやって生まれたのか。その誕生秘話をお届けしよう。
本当は17連射だった「16連射」
――その後、名人は「キャラバン」で毎年ステージの上に立ち、子どもたちのヒーローとなっていきます。シューティングゲームの連射の速さから「16連射」でも話題になりました。
これは気付いたら勝手になっていたものなんです。きっかけは85年のキャラバンで使用したソフト「スターフォース」の1面でラリオスという中ボスがいるのですが、「名人ラリオスを倒すのが異常に速いけど、一体どんなスピードで撃っているんですか」という問い合わせがあったことですね。
それで調べてみようということになったのですが、当時計測器というものがなく、ビデオでもちゃんと撮れずコマ送りもできなかったので、結局ラリオスを倒す速さから逆算しようということになりました。そうしたら、大体16連射ぐらいということが分かったんです。
ただ、この話には続きがあって、翌年のキャラバンのタイトルになった「スターソルジャー」に合わせ、「GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦」という映画を撮ることになりました。映画だと1秒間に24コマなので、コマ送りで実際にADさんが切り出して数えてくれたんです。そしたら、10秒240コマで174発。実際には17.4連射だったというわけです。それでも、コンピュータ的には16がきれいな数字なので、「16連射」ということになりました。
「冒険島」でハドソンの顔へ
――86年に発売したアクションゲーム「高橋名人の冒険島」でも登場することになりますが、どのようにハドソンの顔になっていったでしょうか。
「冒険島」はハドソンが一から開発したものではなく、アーケードゲームにあった「ワンダーボーイ」というゲームを移植しアレンジを加えたものなのです。当時「スーパーマリオブラザーズ」の大ヒットもあり、社内でも「アクションゲームが欲しいね」ということで開発が決まりました。
そこである程度できてきたところで、副社長と一緒に現場を見に行く機会があったんですね。そしたらそこで副社長が「いまお前人気なんだから、これ(主人公)お前にしたら」と言い出して、その場にいた開発スタッフもみんな「いいんじゃないですか」ってことになり、もう一日二日で私がゲームに登場することになったのです。
「冒険島」は、ゲーム大会(キャラバン以外)にも採用され、最終的に100万本を超えるヒット作になりました。ただ、当初は複雑な思いもありました。だって自分がプレイヤーキャラになったことで、自分が毎日死んでいくわけですから(笑)。今となってはいい思い出です。後編は11月30日(土)に公開いたします!
著者プロフィール
河嶌太郎(かわしま たろう)
1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。アニメコンテンツなどを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「週刊朝日」「AERA dot.」「DANRO」「Yahoo!ニュース個人」など雑誌・ウェブで執筆。ふるさと納税、アニメ、ゲーム、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。共著に『コンテンツツーリズム研究〔増補改訂版〕 アニメ・マンガ・ゲームと観光・文化・社会』(福村出版)など。
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