「新興国」と一括りにできない理由:KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)
いまでも「新興国(エマージング)」は、米国金利が上がっても下がっても、原油や資源価格が上がっても下がっても大丈夫なのか、などと質問を受ける。しかし投資において、新興国を一括りに分析することが難しくなってきたと考える。
新興国通貨への投資成果は大きいと期待できるが、「罠」に注意
このように考えると、中国は典型的な中所得国であるから(ASEAN諸国も似ているが)、次の段階には「罠」が潜んでいることを知っておきたい。中所得国の罠とは、先進国の生産拠点が進出し外国からの技術習得が一段落した後、自らの創造性を獲得・発揮できるまで時間がかかってしまう状態を指す。これらの国は、すでに農業から工業への人口移動が一段落しており、次は付加価値の高い製品を生み出し、台湾や韓国のように世界になくてはならないブランドやバリューチェーンの一角となる必要がある。単なる世界の工場では、次の段階に進むことができない。
一般に、低所得国と呼ばれる国で農業から工業へ人口がシフトするとき、一人当たりの所得や生産性が上昇し、通貨の価値が増すとされる。しかし、中国などすでに中所得国となった国や地域への投資では、その次の段階を越えるために適切な政策が施され、産業がもう一段発展する必要がある。
一方、インドは、まだ低所得から中所得を目指す段階とみている。農業はいまだに重要な産業であり、消費が天候に左右されるなど不安定でもある。しかし急激に進む産業の高度化で、IT技術などを駆使した「蛙飛び」の発展が期待できる。鉄道や電力など基本的なインフラが整備されて技術の集積が進む中で、中所得国への道を歩もう。その他の分類として、ブラジルやロシアは資源国と分類され、原油価格等の上昇が好材料となりやすい(ブラジルの原油輸出は限定的だが天然資源の輸出は多い)が、中国やインドは資源消費国で、原油価格等の上昇が悪材料となりやすい。
このように、過去において「新興国」と一括りにして観察することに分かりやすさがあった地域でも、時を経てさまざまに異なる要因が資産価格や為替を動かすようになってきている。
政治状況の違いが株式投資の観点として重要
これまでの新興国への株式投資の成果は大きいものだった。期待するリターンを生み出した国や地域が多い。為替で見るように、国としての産業の発展段階がそれほど顕著に変わっていないとしても、株式市場では、先進国に本社がある関連会社の発展や、地元企業の成長機会の拡大が継続的に進んでいるとみているようだ。
新興国への株式投資の成果の継続性を見るためには、政治状況が(先進国投資よりも)重要と考える。例えば、地方よりも中央が政治をリードできるインドでは、税制や倒産・不良債権処理を明確化するなどの改革が進んでいる。中所得国の中国では、中国製造2025で付加価値増大を目指す政策が進んでいる。一方、トルコでは大統領の中央銀行への介入が懸念されるなど、適切な政策が行われるか不透明なケースもある。
三権分立や多党制民主主義が強い先進国などと異なり、新興国は政策次第で大きく発展したり、停滞に落ち込んだりすることもあり、新興国投資では国により異なる事情を知ることが重要になる。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
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