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重度障害で寝たきりでも働ける「分身ロボットカフェ」――親友の死、引きこもりの苦悩を乗り越えた吉藤オリィが描く「孤独にならない社会」障害とは「テクノロジーの敗北」(1/5 ページ)

ロボットが接客して、注文を取り、コーヒーを運ぶ。それだけでなく客と雑談し、メールアドレスの交換もしている。東京・大手町でオープンした「分身ロボットカフェ DAWN ver.β2.0」でのことだ。ロボットを動かすのは遠く離れた場所で寝たきりで生活する、重い障害のある人をはじめとした外出困難な人たちで、2020年までの常設化を目指している。オリィ研究所所長の吉藤オリィさんに、分身ロボットカフェのプロジェクトが未来をどのように変えていくのか聞いた。

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 ロボットが接客して、注文を取り、コーヒーを運ぶ。それだけでなく客と雑談し、メールアドレスの交換もしている。これはSFの話ではない。東京・大手町で10月7日から23日までオープンした「分身ロボットカフェ DAWN ver.β2.0」でのことだ。

 このカフェは、分身ロボット「OriHime」の開発と提供を手掛ける、株式会社オリィ研究所(東京都港区)が期間限定で運営した。ロボットを動かすのは遠く離れた場所で寝たきりで生活する、重い障害のある人をはじめとした外出困難な人たち。期間中30人が働き、カフェを訪れた約2000人を接客した。

 カフェは2020年までの常設化を目指している。オリィ研究所の代表取締役所長の吉藤オリィさん(32歳)は、今回の期間限定のオープンは常設化を実現するための公開実験だと話す。分身ロボットカフェのプロジェクトが未来をどのように変えていくのか、吉藤さんに聞いた。

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吉藤オリィ (吉藤健太朗) 株式会社オリィ研究所代表取締役所長 。1987年、奈良県生まれ 。小学校5年から中学校2年まで不登校を経験 。工業高校にて電動車椅子の新機構の開発を行い 、国内の科学技術フェアJSECにて文部科学大臣賞 、ならびに世界最大の科学大会ISEFにて GrandAward3rdを受賞 。その際に寄せられた多くの相談と自身の療養体験がきっかけとなり、「人間の孤独を解消する」ことを人生のミッションとする 。その後 、高専で人工知能の研究を行い 、早稲田大学創造理工学部へ進学 。在学中に分身ロボット O r i H i m eを開発し 、オリィ研究所を設立 。米 F o r b e sが選ぶアジアを代表する青年30人「30under30 2016」などに選ばれ 、現在はデジタルハリウッド大学院で特任教授も務めている 。オリィの名前の由来は趣味の折紙から 。著書に『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)『サイボーグ時代ーリアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略ー』(きずな出版)

肉体労働を可能にするテレワーク

 全長120センチのロボットOriHime-Dが、コーヒーカップを乗せたトレイを持って、店内を進んでいく。注文があったテーブルに着くと、ゆっくり手を動かしてカップをつかみ、一つずつテーブルに置いていく。

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左手でコーヒーカップをテーブルに置くOriHime-D。遠く離れた場所にいる、障害があって体が不自由なパイロットが操作している(10月23日東京・大手町)

 うまく置けるたびに、客から「おおー」と歓声があがる。全てのカップをテーブルに乗せると、OriHime-Dは「やりました」と言って、腰に手を当てて胸を張った。カフェの客からは大きな拍手が起きた。

 カフェの店内を動いてまわっているのは、3体のOriHime-D。各テーブルには首だけが動く小型ロボットのOriHimeがいて、客から注文を聞き、雑談もする。カフェに興味を持った企業の関係者とメールアドレスを交換しているOriHimeもいた。

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大型のOriHime-Dと小型のOriHimeはともに客と雑談を交わすなど接客をする(オープン初日の10月7日)

 ロボットを操作しているのは「パイロット」と呼ばれるスタッフで、ほとんどのパイロットが重度の障害があり、外出が困難な人たち。東京を遠く離れた自宅などからスマホやPCで遠隔操作をしている。

 中には言葉を発することができず、眼球しか動かすことができない難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者もいる。視線による入力でロボットを動かし、会話をするためのソフトを使って、接客しているのだ。これは仕事であり、パイロットには東京都の最低賃金をベースにした給料が時給で払われる。

 「分身ロボットカフェ」がオープンしたのは今回が2回目。昨年は11月から12月にかけての10日間オープンし、10人のパイロットが勤務。今回は17日間で3倍となる30人のパイロットが働いた。

 カフェを運営するオリィ研究所代表取締役所長の吉藤オリィさんは、OriHimeによってパイロットが働くことを「アバターワーク」と呼んでいる。

 「パイロットは遠くにいますが、ここに存在していて、物を運び、人を案内し、接客することができます。アバターワークと呼んでいますが、分かりやすく言うと、肉体労働を可能にするテレワークです。

 つまり、分身ロボットカフェは、カフェを運営すること自体が目的ではありません。体が動かないために働いたことがない人、もしくは久しぶりに働く人たちの、働き方のトレーニングの場として機能すると考えています」

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3体のOriHime-Dで6つのテーブルを接客する
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OriHime-Dが実現するのは「肉体労働を可動にするテレワーク」
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