MAZDA3 一番上のエンジンと一番下のエンジン:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
MAZDA3のことはすでに書き尽くした感もあるのだが、国内仕様の試乗会に行ってみたら思わぬ伏兵が待っていた。今回の試乗会の主役はXだったはずなのに、いきなり予定調和が崩れる。SKYACTIV-G 1.5を積んだクルマが素晴らしかったからだ。箱根で行われた試乗会では、乗る人乗る人に「1.5良いねぇ」と言われまくったマツダの人達は、極めて複雑な表情だった。
仕組みからいって、どうやっても走行中に燃焼の切り替えが必要だ。つまり普通に火花から延焼させて混合気を燃やすスパーク・イグニッション(SI)領域と、火花が作った火球によって圧縮された周辺の混合気が圧縮着火に入るSPCCI領域の2つのケースでは、根本的な燃焼理論が切り替わる。それが運転中のクルマの、いやエンジンの、もっといえば燃焼室で連続的に起きるのだ。
新発明であるこの方式の動作の切り替わりを、スムーズにつなぐノウハウなんてこの世にあるはずも無いので、それを徹底して考え、実験し、問題を解決していかなければならなかった。そういうエンジンの世界第1号が今回MAZDA3に搭載されたわけだ。そういうものが、100年間技術を積み重ねてきた普通のエンジン同様に扱えること自体が奇跡である。にもかかわらず、その出来は非常に良かったのだ。
「凛と艶」のエンジン
まずはクルマを発進させる。マイルドハイブリッドでモーターを備えているせいもあって、低速からしっかり仕事をするパワートレインだ。中速域もトルキーで、レスポンスも良い。それもアクセルをワイドオープンした時だけでなく、筆者が一番気にする微細なスロットルワークに対するレスポンスの付きも異様に骨太だ。頼もしい。
踏み込めば高回転までグイグイと回り、レッドゾーンまで引っ張る気持ちよさもキチンと実現されている。しかしXの本質は、ゆとりのある大人のエンジンである。一言でいえば「異常なまでに自然」。ハイテンションな空騒ぎが似合わないジェントルなユニットに仕上がっていた。マツダは魂動デザインの本質を「凛(りん)と艶(えん)」だと言うが、このユニットはまさに「凛と艶」という言葉が似合う。
自動車の酸いも甘いもかみ分けた人が到達する理想が、そこに投影されているのがよく分かる。この絵図を書いた人の見識の高さに敬服するし、筆者も多分言論としてはそれこそが到達点だと思う。何というか、鮒(ふな)に始まって鮒に終わる。「エンジンというものは詰まるところ、人間の感覚に素直な過渡特性が命である」そういう達観があり、同時に未来感が詰め込まれたちょっと例を見ない製品だと思う。
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