新型アクセラの驚愕すべき出来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
マツダの新型Mazda3(アクセラ)に試乗した。ドアを開けて座った瞬間、そのただならぬシートに驚く。走り出してボディの硬さにびっくりする。前代未聞の感覚だった。もちろんプラスの意味である。
新型Mazda3(国内名:アクセラ)のドアを開けて座った瞬間、そのただならぬシートに驚く。走り出してボディの硬さにびっくりする。前後、左右の曲げ方向とねじり方向はもちろん、対角線方向の曲げのがっちり感は、「ほう。ここの剛性を上げると、こういうフィールになるのか」という前代未聞の感覚だった。もちろん好印象な方向だ。
新型Mazda3(アクセラ)の試乗会は北米カリフォルニアで開催された。試乗モデルは欧州仕様のハッチバックが2.0マイルドハイブリッドとMTにサマータイヤ。北米仕様がセダンに2.5リッター6段ステップATとオールシーズンタイヤの組み合わせ
全てが引き算でできている
室内を見回すと、デザインが落ち着いている。第6世代のマツダのインテリアデザインは、それ以前に比べれば、雲泥のスタイリッシュさを手に入れていたが、「どう? かっこいいでしょ?」という押し付け感がそこここに漂っていた。第7世代デザインからはそういう圧の強い「これ見よがし」が消えて、デザインが身に付いた感じがする。
それをエンジニアに伝えると、「まさに狙ったところです。今回はクルマ全体に引き算の方向で、人間にとって余分な違和感を丁寧に取り除いていったのです」。確かに第6世代デザインは、上昇志向というか、どこかキザにギラついた欲望のにおいがした。第7世代ではそれがスッと消えて大人の落ち着きを手に入れた。正直に言えば、筆者は、第7世代デザインを見せられて、初めてそれまで漠然と感じていたその第6世代のキザったらしさを明瞭に認識したのかもしれない。
今、デザインの話なのにエンジニアに聞いたと書いたのは、筆の勢いとかうっかりの書き間違いとかではない。今回のMazda3の開発の全ての部門において「人間中心のためのノイズの除去」というキーワードが徹底されていて、誰に何の話を聞いてもそれがブレない。自分の担当する部門とそれ以外の部門のテーマが全く同じなので、サスペンション担当のエンジニアなのに「その話はデザイナーを呼んできましょう」とならない。自分の言葉で「引き算のデザインなんです」と明確に語るのだ。
もっと言えば、上司に納得させるための内向きのエネルギーを一掃して、ユーザーに向けた外向きのエネルギーに変換した。「言われた通りにやりました、これで良いですか?」と上の判定を待つ感覚ではなく、ユーザーのためにしなければならないことを一人一人が明瞭に描けるようになった。それこそが第6世代の開発を通してマツダの社員が手に入れた最大の財産だと筆者は思っている。
これまでの取材で聞いてきた話によれば、第6世代の開発、すなわちSKYACTIVの導入の時はそうではなかった。たび重なる倒産危機によって「本当にそれで大丈夫なのか?」と社員は萎縮し、開発トップはそれを叱咤激励してSKYACTIVに集中させた。
しかし第6世代の成功によって、やってみなければ分からないことがやってみてどうなのかはっきりした。もう行き先は「行ったことがある場所」なのだ。今やマツダの全スタッフが「信じた方向は間違っていない」と確信しているように見える。不安の中でおずおずと進めていた開発から一変して、同じ理想を明確に共有できるようになった。それが仕上げレベルの劇的向上に結び付いたと言える。
料理で言えば「あの素材とこの素材をこういう味付けにするんだよなぁ」と何度もレシピを確認しながら作る段階から、明確に仕上がりがイメージされ、手順も手の内に入った。これまで作るだけで精一杯だったリソースを、灰汁や脂を丁寧に取り除く仕上げレベルの向上に使える余裕ができたのだ。少なくともMazda3を見る限り、第7世代には迷いがない。いや、もちろん一切ないわけではないだろうが、第6世代と第7世代の根本的な違いはマツダの自信と、余裕にあると思う。
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