MAZDA3 一番上のエンジンと一番下のエンジン:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
MAZDA3のことはすでに書き尽くした感もあるのだが、国内仕様の試乗会に行ってみたら思わぬ伏兵が待っていた。今回の試乗会の主役はXだったはずなのに、いきなり予定調和が崩れる。SKYACTIV-G 1.5を積んだクルマが素晴らしかったからだ。箱根で行われた試乗会では、乗る人乗る人に「1.5良いねぇ」と言われまくったマツダの人達は、極めて複雑な表情だった。
昨今なかなか味わうことのない新鮮な感覚だが、既視感もある。これは昔のホットハッチだ。80年代後半のCセグメント、例えばファミリアのB6型1600cc DOHCはグロスで130馬力程度。グロスの130馬力は今の馬力では110馬力くらい。1.5Gの111馬力とまさにドンピシャだ。当時のCセグハッチのエンジンは1.3と1.5が標準で、時代と共に追加されたスポーツグレードは1.6DOHCと相場が決まっていたのだ。ホンダのシビックSiでもトヨタのカローラFXでも同じだが、その1.6 DOHCを思い出させる。
まあ当時の車両重量は当たり前に1トンを切っていたので、一概に同じとはいえないが、言い訳がましく書けば、燃焼制御の向上によって全域でトルクが出ている上に、シャシーとアシの仕立てが段違いなので重量差はチャラ。そういう時代を思い出させるとても楽しい乗り物だ。
もちろん欠点もある。キツい上りでの加速力は今の水準では厳しいし、クルコン(クルーズコントロール)で走っている時も、加速時にエンジンがうなってしまう。Xならそういうことは無い。
マツダはMAZDA3のハッチバックをファストバックと呼ぶ。X搭載車に関してはその気持ちがよく分かる。その昔はCセグに2リッターの役物エンジンなんてあり得なかったし、斜め後方視界や、ラゲージを犠牲にしてボディ剛性やスタイルを優先させたキャラクターという意味では、これはセリカやシルビアのいたリーグのクルマだ。上質感と重厚感を備えたラグジュアリークーペだと考えると、値段的にも辻褄が合う。
昔のようにクルマが売れない今の時代に、MAZADA3は、2リッター級のクーペと1.6リッター級のハッチバックが統合されているとも考えられるのではないか? だから、もし欲しいのがホットハッチだとするならば、X搭載グレードは高いし、乗り味から言っても1.5Gの方がずっと「らしい」クルマになっている。
ということで、1.5を購入した人には「おめでとうございます」だ。Xについてはずいぶんいろんな人と議論した。価格差分のユーザーベネフィットがあるのか? 確かにそれには反論し難い。馬力差や燃費差でカバーしようとする限り、それは難しいかもしれない。ただ、その論でいけば、カーシェアに対して自分でクルマを所有するベネフィットは? という話になるだろう。軽自動車で十分という論も説得力がある。
けれど、クルマを持つことを全部コスパで見る話はやっぱり腑(ふ)に落ちない。結局のところ欲しいから買うのだ。世界初のハイテクエンジンを買って持って満足するという価値は、多分金銭評価できない。それに価値を感じる人に対しては、見合うだけの満足を与えてくれるエンジンだと思う。もちろんマツダは継続的な努力によって、そういうパトロンシップでクルマが選ばれるのではなく、ベネフィットで納得がいくように熟成させていかなくてはならないだろう。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。
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