堀江貴文がミュージカル『クリスマスキャロル』で仕掛ける「新時代の舞台ビジネス」:「商業的成功」が不可欠(3/3 ページ)
ホリエモンこと堀江貴文が「演劇界の常識破り」に挑戦している。12月11日から15日まで東京キネマ倶楽部で、 12月24日から25日まで大阪市の味園ユニバースで計6日間、ミュージカル『クリスマスキャロル』を公演する。公演実施に際して、堀江が演劇を取り巻く状況をどのように捉え、今回の再演に際してどんな対策をしてきたのかをビジネス的な観点からインタビューした。
「花より団子」 ご飯を食べながら忘年会気分で
「花より団子」という言葉もあるが、ミュージカルの演出に劣らず、観客を魅了する飲食の仕掛けが多々あった。堀江の食へのこだわりを感じさせる。観賞中にはアルコールの飲み放題付きの「スペシャル和牛フルコース」が用意された。今回の工夫は2点あるという。「前回は英国式の料理に寄せていたが、ワクワク感が足りなかった。今回は和牛の『ミニ牛丼』を入れています。牛丼って、すごくそそるじゃないですか」
もう1点は料理が冷めないようにするための工夫だ。18年の公演での反省を踏まえて工夫したという。季節柄、料理は冷めてしまいやすい。調理設備を会場に設置できない中で100人以上に料理を提供しなければならない。
「例えばスープは魔法瓶から直接入れるようにするなど温かいままで提供できるようにしました」
先述した通り豪華料理付きのチケットは4万円からで、15万円の「VIP席」では堀江が休憩中と終演後に同席して歓談ができる。今回は、休憩中の幕間を15分程、昨年より延長し、40分間ほど取っていた。幕間の時間を延ばすことで、よりコミュニケーションの時間が取れ、「忘年会」的な演出ができる。それが顧客満足につながるのだという。
富裕層をターゲットにした高額チケットには伏線もある。堀江がかねて携わっている和牛を広める事業の「WAGYUMAFIA」では、3万5000円の神戸牛カツサンドなどを展開している。堀江は「(そういう取り組みとも)連携が取れている」と答えた。従来はなかったような富裕層のターゲットを創出することで収益化につなげている。
また幕間の時間に「キャスト応援チップセット」を販売し、チップ3枚(1500円分)で一部のキャストとチェキ撮影ができるシステムを導入した。「AKBでいう『握手券』的な位置付けです。キャストが直接サービスをすることによってインセンティブになる」。また、チップ1枚で「おてやすみ」というハンドマッサージも受けられる。
興味深かったのは、耳が聞こえにくい人でも字幕で演劇を見ることができる「字幕グラス」が用意されていたことだ。飲食など楽しめる要素を作ることによって間口を広げつつも、少数の人にきちんと配慮する堀江のセンスを感じた。また今回初となる12月24日、25日の大阪公演では、バーレスク東京(東京・六本木)のダンサーを起用するなどしてダンサーの数を増やしエンターテインメント性をさらに高めたいという。
以上が堀江のクリスマスキャロルへの取り組みだ。演劇と飲食を一体化させた斬新な発想の背後には、DMによる声掛けなど一見すると地味で泥臭い営業活動があった。
演劇界を巡る現状は厳しい。19年6月には上川隆也が所属していた劇団「演劇集団キャラメルボックス」の運営会社が破産開始決定を受けるなど(関連記事を参照)、観客動員数の伸び悩みから業界全体で苦戦を強いられているのが実情だ。だが、堀江は独自の取り組みを発想し、実行することによって、従来とは異なる演劇のポテンシャルを提示し開拓しようとしている。
国内市場が縮小していく業界もある中、苦戦を強いられている経営者も少なくない。だが、従来のやり方や視点を変えることによって潜在的な可能性を引き出そうとする堀江のまなざしは、将来へのヒントになるはずだ。(敬称略)
関連記事
- 僕の足を引っ張らない社会を作る――ホリエモンが演劇をアップデートする理由
ホリエモンこと堀江貴文氏が主演を務め、現在公演中のミュージカル『クリスマスキャロル』。そもそもなぜホリエモンは芝居をやっているのだろうか? その真意を探った。 - ホリエモンが政治家に頭を下げてまで「子宮頸がんワクチン」を推進する理由
ホリエモンはなぜ「子宮頸がんワクチン」を推進しているのだろうか。その裏には、政治に翻弄された「守れるはずの命」があった。 - ホリエモンが「東大卒ブランド」を捨てた理由――私はこうして起業家人生をスタートさせた
本当にそれは必要ですか? 経営者としての「ホリエモン流」人生哲学。ビジネスにまつわる「捨てる」ことの意義を、3回に分けて紹介していく。前編は東大を中退し起業家人生をいかにスタートさせたのかをお届けする。 - ホリエモンが社員を「切り捨て」てきた真意――サラリーマン社会も楽な方に変えられる
本当にそれは必要ですか? 経営者としての「ホリエモン流」人生哲学。ビジネスにまつわる「捨てる」ことの意義を、3回に分けて紹介していく。中編はホリエモンが社員を「切り捨て」てきた真意を語る。 - ホリエモンが語る「修業期間」を真っ先に捨てるべき、これだけの理由――職人ではなく「経営者」になれ
本当にそれは必要ですか? 経営者としての「ホリエモン流」人生哲学。ビジネスにまつわる「捨てる」ことの意義を、3回に分けて紹介していく。後編は修業期間というものがいかに無意味かに加えて、経営者視点に立つことの重要性をお伝えする。 - ホリエモンが北海道“ロケットの町”で次の一手 「堀江流レストラン」開業に奮闘
日本の民間ロケットとしては初めて高度100キロの宇宙空間に到達したホリエモンロケット「MOMO3号機」。ホリエモンこと堀江貴⽂氏が、ロケット打ち上げでも縁のある人口5700人の「北海道⼤樹町」で、ロケット事業に続く“次の一手”を繰り出そうとしている。 - 【独占】ひろゆきが語る「“天才”と“狂気”を分けるもの」
平成のネット史の最重要人物「ひろゆき」への独占インタビュー。ひろゆきの仕事観・仕事哲学を3回に分けて余すことなくお届けする。前編のテーマは「“天才”と“狂気”を分けるもの」――。 - ひろゆきが斬る「ここがマズいよ働き方改革!」――「年収2000万円以下の会社員」が目指すべきこと
平成のネット史の最重要人物「ひろゆき」への独占インタビュー。ひろゆきの仕事観・仕事哲学を3回に分けて余すことなくお届けする。中編のテーマは「働き方」――。 - 『ジャンプ』伝説の編集長が、『ドラゴンボール』のゲーム化で断ち切った「クソゲーを生む悪循環」
『ドラゴンボール』の担当編集者だったマシリトはかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイのプロデューサーに対して、数億円の予算を投じたそのゲーム開発をいったん中止させるという、強烈なダメ出しをした。ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。「クソゲーを生む悪循環」をいかにして断ち切ったのか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.