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欧米と日本の“いいとこ取り”でIT化を加速 ライフネット生命のCIOが取り組む、システム内製化への道(3/5 ページ)

急速なビジネス環境の変化に追いつけるシステムを――。そんなミッションのもと、ライフネット生命のCIOに就任した馬場靖介氏。外資系企業での経験を生かした、欧米と日本の“いいとこ取り”で進めるトランスフォーメーションとはどのようなものなのか。

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欧米企業のシステム開発体制から学んだこと

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中野: ちなみに、これまで所属してきた海外企業では、システムは内製していたのでしょうか。

馬場: 米国系の企業は内製率が高いことで知られていますが、私が所属してきた欧州系の企業は、逆に内製はほとんどせず、もっぱらパートナー企業に外注しています。本社の方がグローバルでパートナー企業と一括契約を結び、世界中の拠点に対して「この会社を使うように」と方針を降ろしてきます。

中野: 欧州にはあまり内製の文化はないんですね。米国では内製の文化が根強いだけに、ちょっと意外な気がします。

馬場: ただ、最近では、欧州の会社でもアジャイル開発手法を取り入れて自社で内製していこうという動きが出てきていますけどね。

中野: 日本では、「パートナー企業にシステム開発の全てを丸投げしてしまうことの弊害」が指摘されていますが、欧州では同じような問題は起こっていないのでしょうか。

馬場: 日本と欧州との最大の違いは、欧州では開発作業の大半をパートナー企業に任せるのですが、アーキテクチャや設計思想、ビジネスロジックといったシステムの“コア”の部分は基本的に自社内で持っている点ですね。

 日本は、コアの部分も含めて全てを丸投げしてしまうケースが少なくない。例えば欧米の多くの会社には、システムアーキテクトとは別に「ビジネスアーキテクト」という役職の人がいて、ビジネスの要件をシステムに落とし込む役割を担っています。しかし、日本企業にはそもそも、ビジネスアーキテクトに相当する役割がなく、その仕事も含めてパートナー企業に丸投げしているように見えます。

中野: まさにその部分が、企業にとって競争力の源泉になるはずなのですが、残念ながら多くの日本企業では、ビジネスアーキテクトはおろか、エンタープライズアーキテクチャの考え方すら、あまり知られていません。「ビジネスや組織の要件を整理して、設計する」という考え方が浸透していないのかもしれません。

 特にグローバルビジネスを志向する場合、将来、海外に打って出たときにシステムがきちんとグローバル規模でスケールするよう、あらかじめ、それに備えたアーキテクチャを設計しておく必要があると思います。早い段階から「海外に進出すること」を意識して作られた組織と体制は、そうでないものと比べて大きな差が出てきます。

 海外への展開準備をおろそかにしてしまったがために、海外進出に苦労している日本企業も少なくない。その点、欧州と米国の企業はコアとなるアーキテクチャの部分をしっかり自社でおさえているんですね。

馬場: そうですね。ただ、欧州と米国では若干の違いもあって、多くの米国系企業はシステムの標準化を重視して世界中の全ての拠点で同じものしか使わせないのが基本です。システムのグローバルスタンダードがきっちり決められているんですね。これは恐らく、ビジネスをグローバルでスケールさせる際のスピードや効率を重視しているのだと思います。

 一方、欧州系の企業は少しアプローチが違っていて、各国の拠点独自の方針もある程度、考慮してくれます。その国や地域でしか使えないローカルなソリューションでも、必要とあらば採用することも許されます。

中野: ただ、2010年代に入ってからは、欧州系企業でも人事や総務、経理といったいわゆる「コモンファンクション」のシステムをグローバルで統一しようという動きも出てきていますね。

 こうした業務は他社との差別化要因にはなりませんから、各国で独自性を積極的に出す必要はありませんし、可能な限り共通化することで効率を上げたりガバナンスを効かせやすくした方がいい。

 一方、システムのフロントエンド部分は、拠点ごとの営業戦略やマーケティング戦略が色濃く反映される部分ですし、国や地域ごとの文化の違いも大きく表れますから、国ごとの独自性を認めている企業が多いですね。

馬場: そうですね。特に保険系のサービスは、国ごとにサイトのデザインが全く異なります。日本の保険会社のサイトは、とにかくたくさんの情報が詰め込まれているイメージですが、逆に海外では「こんなシンプルなUIで本当にいいの?」と思うようなサイトもあります。でも実際には、それでもしっかり売れていますから、海外ではそれでも問題ないんでしょう。

 逆に日本向けのサイトは、法制度をクリアするためにいろいろな情報を提示する必要があるので、どうしても複雑になってしまうのです。

中野: ユーザーが入力する項目も多いですしね。本当は自身の情報が個人を特定できる共通IDとひもづいたやりとりになっていると、もっと使いやすくなると思うんですけどね。もちろん、やりとりされたログを残す仕組みも合わせての話ですが。

馬場: 全くその通りで、日本ではとにかく「本人確認」が大変なんです。

 例えば米国では社会保障番号で個人を確実に特定できるのですが、日本では本人確認のためにお客さまにさまざまな証明書を提出していただく必要があり、保険会社側もそれを都度、照合しなくてはならない。

 また死亡保険金支払いの際の確認も、米国ではSocial Security Death IndexやNational Death. Indexに問い合わせれば本人の死亡がすぐ確認できますが、日本では、都度、死亡証明書を取得して提出してもらう必要があります。

中野: 日本でもマイナンバー制度を始め、個人を特定する共通IDの試みが行われてきましたが、なかなか浸透しない。ここが解決されると省力化できる領域は多いので、重要な話だと思います。

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