アジア諸国より企業のIT化が遅れている――DX後進国ニッポンを救う方法とは:若きIT識者3人が鼎談(1/6 ページ)
アジア諸国に比べても、企業のIT化が遅れている日本。そんな日本を変えるにはどんな方法があるのか――。若きIT識者3人が「日本を元気にするためのIT」について存分に語った。
日本はアジア諸国に比べても、企業のIT化が遅れている――。2018年11月、IT専門調査会社のIDC Japanが衝撃の調査結果を発表した。その調査によると、最新ITを利用した職場変革に取り組んでいる企業は日本が3割程度なのに対し、日本を除くアジア諸国は6割にのぼる。さらに日本企業は、4割が「職場変革に関する具体的な計画はない」と回答するなど、今後も変革が進まない可能性があるという。
なぜ、日本企業のIT化が進まないのか――。理由の1つとして上がっているのが、「IT人材の流動性の低さ」だ。IT人材がシステムインテグレーター(企業の情報システム構築を請け負うITサービス企業)やコンサル企業に偏在していることに加え、企業の情報システム部門が比較的低い境遇に甘んじているため、人材の能力が十分に生かされていないと指摘する声も多い。
しかし近年では、ソフトウェア開発者を中心にフリーランスで活躍するIT人材が徐々に増えている。また「働き方改革」の文脈の一環として、フリーランスという働き方に注目が集まっている面もある。
そうしたフリーランサーや起業家と、企業との間の橋渡しを行い、未来の働き方を先取りしたさまざまなサービスを提供しているのがみらいワークスだ。同社が提供する「フリーランスのプロフェッショナル人材に特化したビジネスマッチングサービス」は、フリーランスとして働く人と、そうした人材を求める企業の双方から高い注目を集めている。
そんな同社を率いる創業社長の岡本祥治氏は、もともと外資系コンサルティング会社のコンサルタントとしてさまざまな企業のIT案件を手掛け、そして現在もみらいワークスのサービス提供を通じて日本のIT業界に深く関わっている。そんな同氏の目に、今日の日本のIT業界やシステムインテグレーター産業はどのように映っているのか。
岡本氏と同じく外資系コンサルティング会社出身で現在、メルカリ IT戦略室長を務める成田敏博氏と、システムインテグレーター出身でこれまでオーディオメーカー、Webサービス企業で情シス部長を歴任し、2018年にITコンサル企業AnityAを立ち上げた同社代表取締役の中野仁氏とともに、「日本を元気にするためのIT」について存分に語ってもらった。
みらいワークス 代表取締役社長 岡本祥治氏プロフィール
1976年神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。アクセンチュア、ベンチャー企業を経て、47都道府県を旅する過程で「日本を元気にしたい」という思いが強くなり、起業を決意。2012年、みらいワークスを設立し、2017年にマザーズ上場を果たす。BS JAPAN「人生が変わる人事の話」に人事の専門家として、20回以上出演。趣味は読書と焼肉と旅行。海外は85カ国以上に渡航。
メルカリ IT戦略室長 成田敏博氏プロフィール
1999年、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)入社。 公共サービス本部にて、中央官庁・特殊法人・独立行政法人を中心に、業務プロセス改革、財務会計システム構築・運用などに従事。2012年、ディー・エヌ・エー入社。2016年よりIT戦略部長として、全社システム戦略立案・企画・構築・運用全般を統括。2019年、メルカリに入社し現職。
AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール
国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。
フリーランスや起業家の支援を通じて日本を元気にしたい
成田: みらいワークスを立ち上げたきっかけを教えてください。
岡本: 若い頃、自分が本当にやりたいことが見つからなかったので、まずはいろいろな業界を見ることができて、かつ短期間の内にスキルを身に付けられるコンサルタントをまずは経験しようと考え、新卒で外資系コンサルティング企業に就職しました。
しかしコンサルタントとして働くうちに仕事が面白くなってきて、本来は「手段」であったはずのコンサルタントの仕事がだんだん「目的化」してきてしまったのです。
そこで30歳になったときに原点に立ち戻って、自分が本当にやりたいことをあらためて探そうと思い立ちました。その際、「自分自身のアイデンティティーは何か?」と自問したのですが、日本人としてのアイデンティティーは持っているつもりなのに、意外と日本のことを知らないことに気付いたんですね。
試しに、訪れたことがある都道府県を数えてみたら、47都道府県の半分にも満たなかったんです。そこで、行ったことがない都道府県に全部行ってみようと考えて、「47都道府県全制覇」というのをやりました。
その結果、地方に行けば行くほどその土地の魅力的な歴史や文化、人、食などと出会うことができて、日本には本当にいいものがたくさんあることを実感しました。
しかしその半面、地方経済は衰退する一方で、たとえ県庁所在地であっても駅前商店街のシャッターは軒並み閉まっており、かと思えばちょっと離れた国道沿いに建つ大型ショッピングモールには人が集まっているような光景が広がっているわけです。
もちろん、経済活動が成熟化して資本の集中が進むとそうならざるを得ないのですが、こうした傾向がさらに進むと「日本の良さ」のようなものがみたいなのが消えてしまい、ひいては自分自身のアイデンティティーも消失してしまうような気がしました。
その時、「もっと日本の良さを生かしながら経済発展をしていく方法はないのだろうか」「日本を元気にするというのはそういうことではないか」と考え、日本を元気にするため起業しようと思い立ちました。
中野: 当時から、現在のみらいワークスのビジネスモデルを構想していたのですか?
岡本: 新卒で入ったコンサルティング会社を辞めて、初めて起業したのが2007年のことでした。その後、みらいワークスを立ち上げたのが2012年ですから、その間の4年半ほどは、社員が自分1人だけの会社でフリーランスのコンサルタントとして活動していました。
当時は「日本を元気にしたい」という目的は明確に持っていたのですが、それを実現するための具体的なビジネスアイデアはまだ固まっていなかったので、1年のうちの半年間はフリーランスのコンサルタントとして働いてお金を稼いで、残りの半年間でさまざまなビジネスを試しに立ち上げてみる――ということを繰り返していました。
そんな中、2008年に起こったリーマンショックのあおりを受けて、仕事になかなかありつけないフリーランスの起業家の方々が周囲に増えてきました。皆さんとても優秀な方だし、時代の流れを見ても、大企業が突然つぶれたり大規模なリストラを行うようになってきて、優秀な人が起業してどんどん個人で働くようになってきていました。にもかかわらず、フリーランスというだけでなかなか信用を得られなかったり、フリーランサーを守るための社会制度の整備もなかなか進んでいませんでした。
私は幸い、フリーンランスとして自身を売り込む営業のスキルやノウハウがありましたから、自分で取ってきた仕事を周囲のフリーランスの方々に紹介するようなことをしていました。すると、とても感謝してもらえるんですね。
そのとき、「優秀なフリーランスの方々が活躍できるような社会インフラが実現できれば、結果的に日本を元気にすることに貢献できるのではないか」と考えたんです。そこで現在のみらいワークスのビジネスモデルを構想して、2012年に会社を立ち上げました。
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