IPOを選ばなくなったスタートアップ
時価総額が10億ドル(約1000億円)を超えていながら上場しない、いわゆるユニコーン企業が話題になって久しい。そこまでいかなくとも、IPOをゴールとせず、未上場のまま資金調達を進めるスタートアップが、国内でも増えている。
時価総額が10億ドル(約1000億円)を超えていながら上場しない、いわゆるユニコーン企業が話題になって久しい。そこまでいかなくとも、IPOをゴールとせず、未上場のまま資金調達を進めるスタートアップが、国内でも増えている。
「ベンチャーキャピタルのファンドの大型化と合わせて、IPOまでの期間の長期化が進んでいる」。そう話すのは、スタートアップ向けベンチャーキャピタル(VC)であるコーラルキャピタルの西村賢氏だ。
2019年のデータを見ると、ファンド規模の大型化がよく分かる。米VCでは、1億ドル以上のファンドが半数近くまで増加している。その結果、スタートアップへの投資額も増加した。米国では1回の資金調達額が1億ドルを超えた企業は200社以上となる見込みだ。
IPOをできれば遅らせたいスタートアップ
投資額の増加とセットで、IPOを遅らせたいというスタートアップも増えてきた。
「IPOは資金調達の一つの選択肢。特にマザーズのような市場に上場して、株価に一喜一憂したり、経営のコントロールが不安定になるのはいいことではない。IPOを喜ぶかどうかは、創業経営者がいるかどうかくらい。我々はIPOをしない選択肢を取っている」と、マーケティングプラットフォームb→dashを提供するフロムスクラッチの矢矧利太郎COOは話す。
経営のコントロール権を維持したい、またストックオプションの活用も含め、社員のインセンティブを維持したい。そうしたニーズが背景にある。
同じくクラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRも、非上場を選択している一社だ。「IPOは目標ではなく成長のための手段の1つ。早いほどいいわけではない。SaaSのビジネスは初期にお金がかかり赤字になりやすい。IPOしたあと、『赤字でしょ、あの会社』といわれて、外からの影響が大きくなってしまう。中期的な成長を考えると、(VCなどから)資金調達をして伸ばしたほうがいい」と、同社CFOの玉木諒氏は言う。
世界中でも、創業からIPOまでの期間は長くなってきている。10年前の09年は平均で7年少々だったが、19年は9.3年まで伸びた。上場までの間に調達した資金も、年々増加しており、19年は平均で2億6700万ドルに達している。10年前の実に7倍だ。
未上場市場へ目を向ける投資家
スタートアップへの投資資金が増えているのは、これまで公開市場に投資していた投資家が未上場市場に目を向けてきているからだ。この数年、金融緩和に伴う「金余り」ともいわれる中、少しでも高いリターンを求めて、さまざまな資産に資金が流入してきた。その一つが、未上場市場、いわゆるプライベートエクイティだ。
同時に、未上場でありながらビジネス基盤や社内体制が確立された企業も増加してきている。「上場企業のようなスタートアップが増えている。売り上げの規模でも、ビジネスモデルの確度でも上場企業に近い。上場企業同様の投資判断ができるので、投資資金が流れ込んでいる」(西村氏)
国内のスタートアップについても傾向は同じだ。年間調達金額は過去6年で6倍に増加し、4000億円弱まで伸びている。ただし、その規模感は米国、中国に比べると極めて小さいのが実情だ。西村氏は、次のように述べ、未上場市場のポテンシャルを強調した。「日本はお金が余りまくっているのではないかと言われるがそんなことはない。対GDP比では小さくて、まだまだアップサイドがある」
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