2015年7月27日以前の記事
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同一労働同一賃金が開く“パンドラの箱”――派遣業界に突き付けられる退職金問題人事ジャーナリスト・溝上憲文の「経営者に告ぐ」(4/5 ページ)

ベテラン人事ジャーナリストの溝上憲文が、人事に関する「経営者が対応すべき施策」を提言する。今回は4月施行の「改正派遣労働者法」について。じつはこの法律は派遣会社の存続を左右しかねない重大な内容を含んでいて、派遣社員を受け入れる派遣先企業にも大きな影響を与える可能性がある――。

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「偽装請負」急増の懸念

 現時点で派遣会社の準備状況がどの程度なのか定かではないが、前出の業界関係者は法律を守らない派遣会社が増えると予測する。

 「最も恐れるのは派遣先均等・均衡方式、労使協定方式いずれも採用しないで事業をする会社が増えることだ。その場合は行政指導を強化してもらう必要があるが、もう一つの懸念は派遣ではなく派遣社員を個人請負にすることだ。専門的な職種であれば可能かもしれないが、チームの一員として業務を行うと、発注者の指揮・命令を受ける『偽装請負』になる。偽装請負が増加する懸念もある」

 何もしないで現状のまま営業を続ければ、派遣業の営業許可を取り消されることになる。派遣社員は派遣先企業の上司の指揮・命令下で働くことは可能だが、請負契約になるとそれは許されない。もし、派遣先の上司が仕事のやり方を指図すれば「偽装請負」ということで派遣法違反となる。

 じつは派遣会社に対する厳しい対応は今回に始まったことではない。2015年の法改正で派遣会社の認可は従来の届出制から許可制になり、要件も厳しくなった。例えば営業する事業所ごとに都道府県の労働局で許可を得る必要がある。許可の要件として基準資産額が2000万円以上あることを求められるが、「派遣会社の中には一つの労働局で許可を得た番号を、他県に開設した事業所でも使って営業しているところもある。厚労省も、そうした違法営業の実態をつかんでいるようだ」(前出・業界関係者)。

 厚労省としてはもともと規制強化によって悪質な派遣会社を淘汰したい思惑があるという。今回の同一労働同一賃金の規制や違法営業の取り締まりによって、廃業に追い込まれる派遣会社が増加したり、大手派遣会社のM&Aによる派遣会社の吸収などが進んだりし、さらに淘汰が加速するとの予測もある。

 もちろん派遣先企業にとっても人ごとではない。法律では派遣料金については、派遣先均等・均衡方式や労使協定方式であっても派遣先企業は待遇改善がなされるように配慮する義務がある。派遣会社が同一労働同一賃金による基本給や退職金などの賃上げに伴う料金の値上げを求められたら応じる必要があり、派遣社員を利用する企業も負担は避けられない。

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労働者派遣、請負のいずれに該当するかは、契約形式ではなく、 実態に即して判断される(厚生労働省のWebサイトより)

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