2019年デビューの良かったクルマ(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
さて、恒例の新年企画は、1日と2日の連続で2019年に乗って良かったクルマについて書いてみよう。基本的にデビュー順だ。
ではなぜそんなに安い価格設定ができたのかといえば、それはもう明らかにTNGAの新たな到達点のたまものである。今年の第2四半期決算でトヨタが公表した資料に、TNGAによって「確実に競争力は上がり、商品も良くなった。但し車両販価は不十分 ⇒ TPS・原価低減の推進」と書かれている。
内容を見ると恐ろしい。開発工数マイナス25%。設備投資マイナス25%。車両原価マイナス10%。いや確かに前者2つに対して車両原価のマイナス10%は少なく見えるが、すでに長年に渡って乾いた雑巾を絞りに絞って原価低減を進めてきたところからのマイナス10%である。本来腰を抜かす様な数字ではないか。
さて、コンピューターに例えれば、TNGAというOS部分が車両開発から切り離されたことによって、個別のアプリで開発投資しなければならない部分が減った。かつOSという共用部分については個別のアプリごとに設備投資する必要がなくなった。いうまでもなくアプリに相当するのはクルマである。
だからこれから先、トヨタの新型車の価格がRAV4のように驚くべき価格になっていく可能性あり、と筆者は見ている。もちろんCASEを筆頭に、車両のコストを押し上げる要因が目白押しの中で、果たしてそんな離れ業ができるかできないかは分からないが、できたら大変なことである。
さて、昨今珍しい日米両国でのヒットモデルRAV4は、基礎的なコンセプトをいったいどうやって詰めたのだろうか? それについてはチーフエンジニアは明確な答えを持っていた。「SUVって、スポーツ・ユーティリティ・ビークルでしょ? だからその基本に忠実に作ったんです。走りがスポーティでユーティリティが高い。そこを揺らがせないようにしたんです」
デザインについても、SUVの基本に忠実にラギット(ごつい、無骨な、荒削りな)な方向性を与えた。加えて4WD機構を3種類設定するなど、周到に用意を行って、顧客に「あれがあればなぁ」と言わせない商品作りになっている。RAV4にはとにかく穴が無い。
道具としてあらゆる面でそつが無い。ハイブリッドのE-Fourを借り出して東京大阪の往復約1200キロを走行したが、シートを含めて疲れは少ない。ADAS(先進運転支援)も現世代モデルとしてはかなり上位にある。これより良いのは筆者が乗った中ではクラウンくらいかもしれない。
ボディは小さいとはいえないが、車両感覚がつかみやすいデザインで、サイズの割に持て余さない。細かいことをいえばインナードアハンドルがヒンジ側に寄りすぎており、狭い駐車場でドアを開けるとき、手の力でストップを掛けにくい。多分風の強い日はとても気を遣うだろう。もっとラッチ側にしっかりつかめる部分を作るべきだと思った。それと、欲をいえばポテンシャルオーナーを悩殺するような、強烈な魅力がどこか1カ所あってもいいのだが、そういうものは無い。代わりに欠点が無い。そういう意味では飽きずに付き合えるクルマだろうと思う。もし買い換えのタイミングだけれど欲しいクルマが無いという人がいたら、お勧めできる1台だ。
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