積み残した2019年の「宿題」 20年の鉄道業界、解決したい“5つの課題”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」新春特別編(5/5 ページ)
2020年を迎えたが、鉄道分野では19年から停滞したままの「宿題」が山積している。リニア中央新幹線の静岡工区、長崎新幹線の佐賀県内区間、そして過去の災害で被害を受けた路線の復旧……。20年はこれらの問題解決に向けた動きが進むことを期待したい。
“2017年”からの宿題「日田彦山線」
日田彦山線の添田〜夜明間は、17年の九州北部豪雨で鉄橋とトンネルに大きな障害が発生し不通となったままだ。しかしJR九州が復旧しても「単独での維持が難しい」として、復旧後の上下分離を提案。現在はJR九州から提案された「年間約1.6億円の収支改善を前提とした鉄道」「BRT整備」「バス転換」について沿線自治体が協議中だ。自治体側は費用負担に難色を示しており、2年間も膠着(こうちゃく)したままだ。
18年に鉄道軌道整備法が改正され、黒字鉄道会社の赤字路線に対しても国の支援が受けられるようになった。しかし、これで被災路線全てが救済されるわけではなかった。復旧費用が支援されても、維持費用が支援されなければ鉄道は復旧されない。
鉄道の宿題はこのほかにもあり、新線建設関係など明るい話題もある。しかし今回はあえて停滞している話題を選んだ。20年にこれらの問題を全て解決すれば、スッキリとした21年を迎えられそうだけれど、どうなるだろうか。継続して注目していきたい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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