積み残した2019年の「宿題」 20年の鉄道業界、解決したい“5つの課題”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」新春特別編(4/5 ページ)
2020年を迎えたが、鉄道分野では19年から停滞したままの「宿題」が山積している。リニア中央新幹線の静岡工区、長崎新幹線の佐賀県内区間、そして過去の災害で被害を受けた路線の復旧……。20年はこれらの問題解決に向けた動きが進むことを期待したい。
2019年からの宿題「台風19号被災路線」
19年に発生した台風19号の被災路線のうち、現在も7路線が不通区間を抱えている。そのほとんどが復旧に向けて工事に着手、もしくは復旧に向けて協議中だ。12月13日、閣議で19年度補正予算案を決定し、被災鉄道の復旧費用に34億8000万円を計上した。主な救済対象は上田電鉄、箱根登山鉄道、阿武隈急行、三陸鉄道だ。
上田電鉄で崩落した鉄橋は、復旧後に地元が保有し維持することを条件に、国が97.5%の費用を負担する支援が検討されている。ただし、三陸鉄道のような上下分離施策などは条件にしない。阿武隈急行の不通区間については、11月に宮城県知事から、交通手段の早期確保のために鉄道以外の方法も検討する、という意見があったけれども、国の支援決定によって鉄道は維持されそうだ。
“2016年”からの宿題「根室線」「留萌線」「日高線」
根室本線の東鹿越〜新得間は、2016年の台風10号で被災。鉄橋の橋桁に流木が堆積し、川の氾濫によってトンネルや駅構内に土砂が流入した。復旧させるには鉄道設備だけで10.5億円の費用が見積もられている。また、河川部分については管理者の北海道に対して、堤防や堰堤(えんてい:川を横断する形のせき止め施設)の設置を求めている。
ただし、この後JR北海道は、同区間を含む10路線13線区を「自社単独では維持困難」と公表。このうち8線区は、国や自治体の支援を前提に存続を目指すことで北海道、国交省、北海道市長会、北海道町村会、JR貨物と合意した。存続されない3線区のなかに根室線富良野〜新得間がある。東鹿越〜新得間はこの区間に該当する。
JR北海道は、富良野〜新得間について、復旧したとしても運行費用は年間10.9億円となり、赤字は年間9.8億円になると試算した。JR北海道は富良野〜新得間を廃止し、バス転換した場合の経費は年間1.1億円と試算しており、売り上げが維持できれば帳尻が合う。しかし沿線の人々には鉄道による存続を求める声がある。
根室本線はかつて、札幌と道東を結ぶ幹線だった。しかし短絡ルートの石勝線が開業してその役割は終わっている。根室線には石勝線に障害があった場合の代替ルートとしての役割が期待されているけれども、いまのところ廃止方針を覆す動きはない。なお留萌線と日高線は沿線自治体が廃止容認に傾いていると報じられている。
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