積み残した2019年の「宿題」 20年の鉄道業界、解決したい“5つの課題”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」新春特別編(3/5 ページ)
2020年を迎えたが、鉄道分野では19年から停滞したままの「宿題」が山積している。リニア中央新幹線の静岡工区、長崎新幹線の佐賀県内区間、そして過去の災害で被害を受けた路線の復旧……。20年はこれらの問題解決に向けた動きが進むことを期待したい。
しかし、ほとんどの沿線自治体はフル規格新幹線を望んだため、フル規格新幹線に変更され建設されている。長崎新幹線はもともとスーパー特急方式を採用し、時短効果が見込める武雄温泉〜諫早〜長崎間で高規格路線を新造し、鳥栖〜佐賀〜武雄温泉は在来線でつなぐ計画だった。しかし、長崎県もフル規格新幹線を望んだ。ここで、佐賀県に対してもフル規格新幹線の合意を得れば良かった。しかし、佐賀県の合意がなくてもフル規格化できるという妙案が現れた。「フリーゲージトレイン」だ。これを使えば、佐賀県内は在来線を走り、長崎県内と博多〜新鳥栖間はフル規格新幹線を走行し直通できる。佐賀県としてはスーパー特急方式と変わらない。反対する理由はない。
ところが、フリーゲージトレイン計画が頓挫してしまう。台車の整備コストに問題があるほか、車輪あたりの重量が大きいため、JR西日本が山陽新幹線への直通を拒んだ。しかし、武雄温泉〜長崎間はフル規格新幹線で整備している。基本計画を達成するためには、新鳥栖〜武雄温泉間もフル規格で整備する必要がある。そこで佐賀県に合意を求めたところ、佐賀県は同意しなかった。
この問題は、そもそも新幹線の着工が決まっていない鳥栖〜武雄温泉間について、フル規格を前提とする計画を佐賀県に突きつけたところから始まっている。在来線活用と新幹線建設は話が違う。新幹線の着工条件の1つに「自治体が並行在来線のJRからの分離を了承する」がある。佐賀県としては、新幹線建設負担が増えるばかりか、赤字必至の並行在来線も押しつけられる格好になる。そもそも、新幹線の建設に合意する前からフル規格が前提とはスジが違う。
落とし所としては、並行在来線となる鳥栖〜武雄温泉間について、引き続きJR九州が運行することだ。武雄温泉〜諫早間については、上下分離して、線路設備が自治体に、鉄道事業はJR九州が行い、23年間は現行水準の列車運行を維持することになった。これと同じか、上下分離無しでJR九州が運営するという条件なら、佐賀県もテーブルについてくれるかもしれない。佐賀県にしたってフル規格新幹線で大阪へ直通するメリットは分かっているはずだ。あとはスジを通し、フル規格に落ち着くとしても、あらためて整備方式の検討をやり直す。フル規格にするなら並行在来線問題を解決する。道筋は見えている。
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