積み残した2019年の「宿題」 20年の鉄道業界、解決したい“5つの課題”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」新春特別編(2/5 ページ)
2020年を迎えたが、鉄道分野では19年から停滞したままの「宿題」が山積している。リニア中央新幹線の静岡工区、長崎新幹線の佐賀県内区間、そして過去の災害で被害を受けた路線の復旧……。20年はこれらの問題解決に向けた動きが進むことを期待したい。
自然を相手にした工事は不確実性を伴う。従って、従来の公共工事のほとんどは、環境アセスメントによって十分に予測した上で、予測できない事態については対症療法で進めてきた。例えば、九州新幹線(鹿児島ルート)の筑紫トンネル工事では、井戸が枯渇した地域や家屋に対して、井戸の増設やポンプアップ、給水車を動員して水を確保しており、恒久的な対策についてはトンネル完成後も協議が続いた。(関連リンク:鉄道建設・運輸施設整備支援機構「九州新幹線(鹿児島ルート)筑紫トンネル」)
この問題の落とし所としては、現在までに予測できること、その対処法、予測できない事態の対応と補償について合意し、問題解決の「憲法」となる協定を結ぶことだ。ここに至るまで、金銭による補償問題、東海道新幹線静岡空港駅建設などの駆け引きなどが疑われ、ゴールポストが見えない時期もあった。やっと水問題の本筋に戻った感がある。しかし依然としてハードルは高い。
2019年の宿題「九州新幹線西九州ルート 佐賀県内区間」
福岡から長崎までの九州新幹線西九州ルートについて、政府与党の新幹線プロジェクトチームや長崎県サイドがフル規格新幹線の建設を求めている。しかし、佐賀県が新鳥栖〜武雄温泉の着工を認めない。それまで、佐賀県側の理由が建設費負担だと思われており、負担金の軽減、国の支援の再検討が行われていた。
しかし、4月26日、佐賀県知事が政府与党の新幹線検討委員会で「佐賀県は新幹線の整備をこれまでも求めていないし、今も求めていない」と発言し、問題の本質が根本的に違っていることが判明した。
福岡市から佐賀市を経由して長崎市に至る新幹線は、1970年に制定された「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、72年に基本計画として告示され、73年に整備計画が決定された。当時の計画路線は東北新幹線の盛岡市〜青森市、北海道新幹線の青森市〜札幌市、北陸新幹線の東京都〜長野市〜富山市〜小浜市〜大阪市、九州新幹線の福岡市〜鹿児島市、九州新幹線の福岡市〜長崎市だった。これらを整備新幹線という。
当初、運輸省は全ての区間について早期建設、コスト削減を図るため、ミニ新幹線またはスーパー特急方式を提案していた。ミニ新幹線とは、山形新幹線や秋田新幹線のように、在来線区間の線路を新幹線と同じ軌間に改造して小型新幹線車両を直通する方式だ。スーパー特急方式は、北越急行ほくほく線のように、新幹線と同等の路盤や緩い曲線を作り、在来線特急を高速に走らせる方式だ。
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