ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
今回のGRヤリスでも、トヨタはまた面白いことを言い出した。従来の競技車両は、市販車がまず初めにあり、それをレース用に改造して作られてきた。しかし今回のヤリスの開発は、始めにラリーで勝つためにどうするかを設定し、そこから市販車の開発が進められていったというのだ。
トヨタはGRカンパニーによるWRCチャレンジのマネジメントを、往年のチャンピオンドライバー、トミ・マキネンに任せることにした。14年にフィンランドでトミ・マキネンと意気投合して、ラリーチームを任せる決断を下したのは豊田章男社長である。
GRカンパニーの説明によれば、マキネンが最初に指摘したのはリヤウィングのことだったという。ボディ形状の影響でリヤウィングに風が当たらない。だからボディの形状を変えないとWRCカーとしての戦闘力が上がらない。
筆者は、最初に話を聞いたとき、無茶苦茶だと思った。ヤリスはグローバル戦略を担うBセグメントカーであり、ボディ形状へのリクエストは、特殊なスポーツモデルのみならず、世界中で大量に販売される普通のヤリスも含めた話になる。リヤの居住性や、スタイリングはクルマの売れ行きに多大な影響を与えるだろう。そこに競技車両にしたときの空力性能を持ち込んでボディ形状に注文を付けようというのだ。
しかし、よく考えてみれば、マキネンは何もリヤシートを潰せと言っているわけではないし、デザインなんてどうでもいいと言っているわけでもない。風が当たるようにしてくれと言っているだけだ。他の要求と同時に叶える方法を検討せずに、ただ却下するのは実はおかしい。
要するにこれまでのトヨタは、特定の部署が重要事項の決定権を集中的に握っており、優先度の低い部署の要求は極めて簡単に却下されてきたということでもある。
組織には極めてありがちな問題である。つまり政治力の無い少数派が重要なカイゼン提案をしても、それを組織の硬直化で拒絶する体制になっていた可能性が高い。もちろんあらゆる提案が全て有用ということではないが、本当の問題は誰が言ったかではなく、何を言ったかであるはずだ。
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