ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
今回のGRヤリスでも、トヨタはまた面白いことを言い出した。従来の競技車両は、市販車がまず初めにあり、それをレース用に改造して作られてきた。しかし今回のヤリスの開発は、始めにラリーで勝つためにどうするかを設定し、そこから市販車の開発が進められていったというのだ。
スポーツカーが継続していくために
さて、そうやってより走りの精度が高いクルマを作れるようになったとしよう。次にそういう「スポーツな領域」のクルマのビジネスをどうやって継続していくのかが問われる。まずはコストセンターではなく、トータルでしっかり利益を出すためにどうするか?
日本では特に、素晴らしい素質を持ち、多くのファンを作ったモデルが、経営や景気の都合、あるいは経営者の考え方ひとつで消え去っていくという悲しいことが繰り返されてきた。
GRカンパニーの当面の目的は、事業の継続的なプロフィットセンター化だ。現状は残念ながらまだコストセンターだというが、向こう2、3年で利益体質に変えていくという。そうしない限り、事業や製品の突然の終了を防ぐことはできない。原則的には利益が出ている事業を止めるということは起こらない。だからGRはレース活動まで含む全てをトータルで黒字化させようと考えている。
GRはピラミッドの頂上に、やがて発売する「GRスーパースポーツ」を頂き、その下の階層にGRファクトリーで生産される純度の高いGRシリーズを置く。ピラミッドの基礎を支えるのは、トヨタの数ある車種にGRが少しずつ手を貸して作るGRスポーツと、GRイメージを使ったカスタムカーやパーツ群だ。これらのトータルで利益体質を確立していくのだという。
スポーツカーと社会のルールをどう共存させるか
さて、最後に一番大変な話を書く。筆者にとっても勇気のいる内容だ。最近強く感じていることだが、スポーツ系のクルマと社会ルールとの共存をどうするか、そろそろ真剣に考えなくてはならない時代になっている。
現実の交通の中で、まる1日運転するとして、例えば車載の自動違反検知器のようなものがあったとすれは、違反を完全にゼロにする運転は不可能だ。これは普段から運転をするドライバーなら誰でも知っていることだ。
しかし、最近では「例え時速1キロの違反であろうとも犯罪だ」とする人がいる。若い世代にはそういう人が増えているのを肌で感じる。
他方、おっさん世代では、山道に行ったらぶっ飛ばすのは当然という人がいる。そしてこういう人たちは「1キロの違反も許さない」という人達の感覚がまるで分からない。この対立はこれから激化するのではないかと筆者は予想している。
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