日本のEVの未来を考える(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
なぜ大量生産だけではコストが下がらないのか
こういう生産設備は、立ち上げコストは無論のこと維持コストも高くつく。よく「大量生産すればコストは下がる」という意見を聞く。もちろん量産によるコストダウン効果はゼロではないが、バッテリーはどちらかといえば量産ではあまりコストが下がらない製品だ。
量産効果でコストが下がる要因は一般的に2つある。1つは材料の大量調達によるコストダウンだ。しかしバッテリーには、レアメタルやレアアースなど市場で需給が釣り合わない素材が多く使われており、大量生産で需要が高まればむしろ価格が上がってしまう。もちろんバッテリーのケースだの配線だのは大量調達での価格低減効果があるだろうが、このへんはもうとっくに下がるところまで下がっていて、そこから5%や10%下がっても価格に影響しない。むしろ、一番価格を支配する材料に対して、大量発注は調達コストに逆に働くのだ。
もう1つは生産の効率化によるコストダウンだが、バッテリーはロボットなどを使って手順を自動化してバンバン作れるような製品ではなく、イニシャルコストの割り勘が効きにくい。細かい作業の積み重ねが求められる、意外に精密な製品なのだ。だからコストは基本的にセル数に従量的になる。
ではバッテリーの需給が逼迫(ひっぱく)したまま、なぜいつまでも改善されないのか? それはバッテリー技術の進歩がまだまだ進んでおり、バッテリーメーカーとしては巨額の設備投資をどのタイミングでするかの判断が難しいという点にもある。例えば今話題の全固体電池はまだ完成していないが、どうやらもうカウントダウンに入っているらしいという話は誰もが耳にしているだろう。このタイミングで、リチウムイオン電池のための巨大な設備投資は誰だって決められない。ここで全固体電池の開発の遅れを見込むのもあまりに博打要素が強すぎる。かといって次世代の全固体電池は未完成だ。
ということで、バッテリーの調達はまだしばらく厳しい状態が続くし、コスト低減もそうそうはかどらない。
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