日本のEVの未来を考える(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
車両価格300万円、航続距離250キロ、充電時間10分
とはいえ、長距離を完全に切り捨てろといわれて、納得できる人だけを相手にしていてはEVは普及しない。そこはそれ、何かの方法でカバーする必要がある。商品性の問題だ。
あまりに合理的な容量だと、仮に東京から大阪の実家に帰る500キロをこなそうと思うとだいぶしんどい。理詰めで正しいと書いた20kWhのバッテリーだと、大体100キロごとに充電がいる。その充電時間が30分ではさすがに面倒過ぎるし、しかもそれが盆や正月の帰省ピークにでも当たれば、充電器の渋滞は絶望的になるだろう。
さて、どうしたらいいか? 従来の解決方法は、そのために普段は無駄でも大容量バッテリーを搭載することだった。本当に他のプランはないのだろうか?
問題を整理しよう。バッテリーの大容量化は車両価格の高騰、バッテリー生産の逼迫によるEVの生産台数の低下、重量増加によるエネルギーとスペースのロスを産む。それを許容しないなら、混雑期の長距離走行を諦めなくてはならない。これを諦められる人は、低容量バッテリーのEVを買えばいい。セカンドカーだったらなおさらそれで十分だ。
だが、それではEVの本格普及が目指せない。ではどうしたら普及するのか? 筆者はひとつのガイドラインを考えた。車両価格300万円、航続距離250キロ、充電時間10分。これを満たせれば、必ずEVは普及する。価格と航続距離のバランスを見ると、バッテリー容量35kWh程度あれば何とかなりそうだ。東京モーターショーに出品されたホンダとマツダのEVがまさにそのくらいである。
従来、車名別トップ売り上げを達成したクルマはほぼ250万円以下だった。CASEの時代が到来して車両コストが20〜30万円上がっている今、さすがに250万円は難しいだろう。なので300万円と考える。プリウスの売れ筋であるSツーリングセレクションは278万円。まあいいところだと思う。
航続距離の問題は、2時間運転したら休憩という推奨サイクルを考慮すれば、200キロごとの充電はリーズナブルな線だろう。航続距離が250キロなら多少の余裕を持って充電できる。問題は充電時間だ。数台の待ちが発生した時、1台何分なら待てるかを考えると、充電時間は何としても10分程度に収めたい。30分充電が2、3台もいたらさすがに待てる人は少ない。しかもそれが道中で4回も発生するなら、クルマで帰るのを諦めると思う。何時に到着するか分かったものではない。
ではそのためにはどうするか? 充電性能を向上させるしかない。充電性能は充電器の性能とバッテリー制御の両方が求められる。例えばテスラは今、バージョン3(V3)充電器の普及を目指しているが、この充電能力が250kWだ。テスラ・モデル3ロングレンジ(75kWh)との組み合わせとはいえ、5分で最大75マイル(約120キロ)走行分の充電ができるとしている。いろいろな要素が絡むので断定はできないが、35kWhのバッテリーで10分充電は不可能ではないように感じる。
現状35kWhのバッテリーでは航続距離は200キロにしかならないが、これがあと50キロ走れるようになれば、見えてくる世界が明らかにある。(21日掲載の後編に続く)
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