日本のEVの未来を考える(後編): 池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
EVの普及を突き詰めると、充電時間が一番の問題で、バッテリーの詳細な充電規格を電力会社と自動車メーカーの間で策定しなくてはならない。これは充電状況とクルマ側の状態を相互通信しながら行うので当然のことだし、全ての自動車メーカーがその規格を利用できるオープン規格でなくてはならない。
ライフサイクルアセスメントの時代
マツダが東京モーターショーで打ち出した、ライフサイクルアセスメント(LCA)時代のEVの考え方がある。従来走行時のみに注目してCO2排出量が比較されてきたが、ここへきて、欧州を発信源にLCAを訴求する声が増えている。生産から利用、最終的な廃棄までの全行程を通してのCO2排出量を考えるべきだという思想だ。LCAを考慮した場合、バッテリーの容量は35kWhあたりがベストであるとマツダは結論づけた。
このままいくと、大容量バッテリーを搭載するEVにとっては、このLCAがなかなか厳しいことになりそうなのだ。バッテリーというのは生産も廃棄もCO2負荷が高く、LCAで見るとむしろハイブリッド(HV)の方が負荷が低いという試算すらある。トレンドの風向きは徐々に変わりつつある。
ただこのあたりの計算根拠は必ずしも明確とは限らない。筆者は昨年九州大学で行われたLCAの学会発表を公聴してきたが、現時点では、バッテリーの生産負荷に関する基礎的なデータが極めて曖昧にしか出ないものだということが分かった。
数値の根拠となるバッテリーの素材には、今ではもう使われない古い形式のものが含まれているなど、発表者がいろいろと言い訳しないとならない状況だったのだ。しかし、全体としてバッテリーの生産や廃棄についてのCO2負荷が加算されること自体はほぼ確定的だ。
いままでゼロエミッションの名の元に、一切CO2を出さないというフィクションが採用されてきたので、LCAによってそれが是正されるのは正しい。その是正が足りないか行き過ぎになるかは、今のところまだ分からない。しかし、LCAへの注目と共に、基礎的なCO2負荷データの収集は今後急速に進み、やがてもっと明瞭な根拠で負荷が計算できるようになるだろう。となると、おそらく極端な大容量バッテリーに対する批判は避けられなくなると考えられ、やはり中容量バッテリーと充電能力向上の組み合わせにしか出口はなくなる。
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