日本のEVの未来を考える(後編): 池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
EVの普及を突き詰めると、充電時間が一番の問題で、バッテリーの詳細な充電規格を電力会社と自動車メーカーの間で策定しなくてはならない。これは充電状況とクルマ側の状態を相互通信しながら行うので当然のことだし、全ての自動車メーカーがその規格を利用できるオープン規格でなくてはならない。
自宅充電と経路充電のセット売り
何度か繰り返し述べてきたとおり、EVの充電は自宅で行うことが基本だ。ところが国内の電力会社の契約は、通常家庭用の最大契約が60Aである。要するに6kWだから、本来EVの電源としては頼りない。一晩中走って遠路はるばる帰ってきて、別の家人がそのクルマを使って買い物に行きたいというようなケースでは、ルーティンで組まれた夜間の通常速度充電ではどうしようもない。そういう時は自宅でもオンデマンドでそこそこの急速充電を行いたい。
このあたりは電力会社の料金プランに問題がある。夜間電力料金を使いたければ、電力計にタイマーを仕込まれて、昼間は送電を切られる。タイマーを回避しようとすれば、夜間充電するのにも関わらず昼間の料金になってしまう。いまやスマートメーターが普及しているのだから、使った時間ごとに別料金で合算請求することは簡単なはずだ。
そもそも、戸建て住宅の家庭用電力契約で、数台のエアコンや電子レンジ級の家電を稼働させつつ、EVに充電を行うのはそこそこ難しい。クルマに電気のほとんどを持っていかれてしまうのだ。つまり本当はEVの充電は別契約の動力電源にすべきである。
東日本大震災以来、家電メーカーは省電力家電の開発に全力を挙げてきたし、家庭でも家電の買い換えは進んでいる。そのため各電力会社では電力販売の売り上げが落ちてきている。原発が稼働しなくても何とかなっているのは、こういうときに一丸になりやすい国民性によるところは大きいだろう。
しかし電力会社は困る。このへんでいろいろと言いたい人がいるだろうが、電力会社の善悪の話は一旦おいて、EV充電インフラを電力会社が負担したらどうなるかの話に集中したい。
もし、EV用の自宅充電を別契約にして月額3000円とか5000円にしたらどうなるだろう? スマホの通信のような段階契約でもいい。やがてEVが主力の時代になった時、日本全国の戸建ての全てが、EV用動力契約を結んで月額数千円を払ってくれるのだとすれば、巨大な原資ができるというビジョンだ。この契約を結べば、経路充電用の高速充電もセットで使用可能にすればいい。揮発油税に変わる電力課税の問題も解決しやすいだろう。
そうやって全国に高速充電器を普及させれば、これまで挙げてきた全ての問題が解決する。年間1万キロ走行で燃費が14キロ/リッターのクルマで、ガソリンの単価が150円だと仮定すれば、月額8928円の燃料費が掛かっている計算になる。これが5000円とか3000円に収まるわけだ。ユーザーにもちゃんとメリットがある。
トヨタあたりなら、これを得意のサブスクリプションサービス「KINTO」と組み合わせて、メインテナンス料込みの車両利用に、電力と保険まで全部付けて月額5万円くらいのプランを作ってくるかもしれない。
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