すかいらーくの「24時間営業撤廃」を手放しに喜べないワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
「ガスト」や「ジョナサン」を手がけるファミリーレストラン最大手の「すかいらーくホールディングス」は、24時間営業を全廃すると発表した。本件は「働き方改革」という文脈で片付けられやすい。しかし、問題はそれほど単純ではない。これは新たな”実質値上げ”の類型だ。
外食業界が抱える構造的問題
飲食業界は、個人経営やフランチャイズといった競争相手が多く、価格競争に陥りやすい性質がある。つまり、ひとたび値上げしてしまうと、同じ価格帯の他店に客が流れてしまい、かえって売り上げが落ちてしまうという状態に陥りやすいのだ。
外食業界がこれを最も恐れることになったのは、「鳥貴族」の値上げだろう。同社は、17年10月に280円(税別)均一のメニューを298円均一に値上げした。その結果、18年1月から19年10月までの22カ月に渡り既存店売上高のマイナスに苦しむことになる。19年7月期本決算では、消費税増税もあり、14年に上場してから初の最終益赤字となってしまった。
値上げを実施しても顧客離れが起きづらいことを「価格支配力が強い」という。宅配業界のような寡占業界や、ブランド品は価格支配力が強い。これは、ヤマト運輸を皮切りとした宅配業界の値上げによる、個人向け宅配サービスの業績向上からもいえることだろう。
しかし、外食や小売といった価格競争が激しい業界は価格支配力が弱い。これを認識した経営者は、労働需給の逼迫(ひっぱく)や原価の高騰を直接価格に反映することを嫌い、 24時間営業の縮小や対応サービスの品質を落とすことで吸収しているのだ。
このように、値上げではなくコストの削減や吸収をしなければ生き残れないという構造的問題を、外食産業や小売業界は抱えているといえる。
時短営業は日銀の金融政策にも打撃?
次に、サービス面での実質値上げがもたらすことによるリスクとして、日銀の標榜する2%の物価上昇の中長期停滞を挙げておきたい。
サービスの実質値上げが実施される背景には、企業の価格支配力の弱さだけでなく、消費者の根強いデフレマインドもある。実は、物価の上昇をはかる指標である消費者物価指数(CPI)では、量を減らすという典型的な実質値上げは観測できている。したがって、このような実質値上げによって、日銀の物価上昇目標が達成できていないという批判はあたらない。
一方で、近年増加する、サービス面での実質値上げは物価指標では観測できない。そのため、今回のすかいらーくや、コンビニ、スーパーの24時間営業取りやめによる相対的な顧客負担の増加はCPIに現れてこないのだ。
足元では、コンビニやスーパーについても時短営業を試みる動きが広がっている。追随が起これば、今後も広い業界で値上げではなく、サービスを切り詰めても値段を据え置きにしてくるとみられる。全国規模の流れになれば、決して無視できないレベルでの物価上昇停滞が発生するおそれがある。物価上昇が停滞すれば、賃金の上昇も期待しづらくなってしまう。
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