変革への第一歩を踏み出したスバル:池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/7 ページ)
新広報戦略の中で、スバルは何を説明したのか? まず核心的なポイントを述べよう。今回の発表の中でスバルが「次の時代のスバルらしさ」と定義したのは、従来通りの「安心と愉しさ」で、その意味において従来の主張とブレはない。従来と違うのは、その「安心と愉しさ」とは何なのかについて、総花的にあれもこれもありますではなく、もっと具体的言及があったことだ。
スバルがスバルであり続けるために
さて、スバルは確かに変わり始めた。最後にスバルとトヨタの関係について、スバルファンからの心配の声を見かけることが多いので、結びの節としてそれを加えておこう。
スバルファンの心配は、スバルのトヨタ化だ。往々にしてスバルファンはトヨタが嫌いなので、余計不安になるのだと思う。
2020年という時代に、提携先を自社のカラーで塗り潰すつもりでいるとすればそれはだいぶ時代遅れだろう。カネの力で君臨して平服させ、好きなように蹂躙(じゅうりん)することが個人的な快感になる人はいるかもしれないが、ビジネス的メリットはゼロだ。マウントしたいがために何百億円もカネを使う馬鹿はいない。
かつてダイハツが100%子会社化されたとき、トヨタの豊田章男社長に「ダイハツに期待する役割は何ですか?」と尋ねたことがある。その時豊田社長はこう答えた。「まずはダイハツさんが何をやりたいかです。トヨタがあれをやれ、これをやれと指図することではありません」。筆者は、それ以降のトヨタのやり方を見てきて、あの時豊田社長が言ったことは嘘ではなかったと感じている。
だからトヨタ色に塗り潰される心配はいらないと思う。むしろ、大トヨタの威光に萎縮(いしゅく)して、顔色をうかがってしまうことが一番怖い。スバルはスバルらしく、自分たちが進む道を社会に訴え、それに協力して、スバルのブランド価値を高めることが、株主としてのトヨタの存在価値だし、そうしてこそ出資の意味がある。その意味では、スバルが今回の発表で、スバルの価値を自ら再定義して、発表したことには大変大きな価値がある。スバルの未来に期待したい。
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