水素に未来はあるのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
「内燃機関が完全に滅んで、100%全てのクルマがEVになる」という世界は、未来永劫来ないだろう。そのエネルギーミックスの中にまさに水素もあるわけだが、FCVにはいろいろと欠点がある。しかし脱化石燃料を目標として、ポスト内燃機関を考え、その候補のひとつがFCVであるとするならば、化石燃料の使用を減らすために「化石燃料由来の水素」に代替することには意味がない。だから水素の製造方法は変わらなくてはならない。また、700気圧という取り扱いが危険な貯蔵方法も変化が必要だ。
各種エネルギーで天下分け目の合戦をやって、たった1つのチャンピオンを決めるなどという無意味な発想を止めさえすれば、ほとんどタダに等しい水素が潤沢にあるエリアで、わざわざ電気代を払って充電する意味はない。水素には水素の生きる道があるのだ。
副生水素以外にも、水素へのアプローチ方法がある。これはトヨタが横浜/川崎臨海エリアで実証実験をしている最中だが、風力発電の電力を貯蔵する方法として水素を使うやり方だ。
電力会社は全国各地の電力使用量をにらみながら発電量を決める。リアルタイムで消費されている電力と釣り合う発電量にしなくてはならない。保存の効かない電気はずっと昔から究極のオンデマンドだったのだ。
しかしながら風は電力需要に合わせて吹いてはくれない。需要と関係なく風の強さで発電量が決まる。なので発電量が足りているときに風車がびゅんびゅん回っても仕方ない。だとすればその電力で水を電気分解して水素を作れば、できた水素は再生可能エネルギーの貯蔵方法となり得る。これもトヨタと各社のジョイントにより横浜で実証実験が進んでいる。
風力で得たエネルギーに対して圧縮水素として回収できる効率は決して褒められたものではないが、元が再生可能エネルギーであれば、温暖化防止には明らかに役立つはずだ。副生水素と風力由来の水素であれば、LCA(ライフサイクルアセスメント)で見てもCO2排出量は僅少になるからだ。現状を前提とするならば、いまだに旧式の石炭火力発電を排除できないインフラ電力よりクリーン度はずっと高い。
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