ソフトバンク漏えい事件で注目 ロシアスパイが操る伝説の“人たらし術”とは:実はビジネスにも通じる交渉術(2/4 ページ)
ソフトバンク元社員漏えい事件で注目される「ロシアスパイ」。映画くらいでしか聞かないが、実はあなたの身の回りにも!?ビジネスにも通じる彼らの歴史や「人たらし術」を専門家が解説。
日露戦争で活躍「伝説の日本人スパイ」
そのロシアと日本との接点は江戸時代にさかのぼる。1808年、幕府の命を帯びて間宮林蔵(1780〜1844)が樺太(サハリン)を探検し、島であることを確認した。正確な地図作りは情報活動の基本である。インターネット普及以前、全国の詳細な地図を誰もが自由に購入できる国は日本ぐらいであった。諸外国では通常、地図の作成と管理は軍の管轄である。
明治時代に入ると日露戦争が勃発(ぼっぱつ)する。超大国ロシアを敵に回すことになった日本は、背後からロシアを弱体化させようと諜報活動を開始する。その中心人物が明石元二郎(1864〜1919)である。
明石は「欧州方面駐在参謀」という正式な外交官であった。このような人物を情報機関では「リーガル」と呼ぶ。合法的に入国し、外国にあっても法の保護を受けられる身分である。今回のロシア通商代表部と同じだ。一方、明石はロシア各地に外国人からなる情報収集グループを配置した。彼らは文字通りの工作員で、国籍を偽る場合もあることから、非合法を意味する「イリーガル」と呼ばれる。
国によって若干の違いはあるが、外国における情報活動の基本は、リーガルが司令塔となってイリーガルをコントロールし、現地の人間をリクルートしてスパイ網を構築することである。
そんな明石の活動は、特筆すべきものであった反面「ロシア革命を影で支え、ロシア帝国崩壊をもたらした」という伝説を生むことになった。伝説は慢心を生み、今度は大日本帝国に破滅をもたらす。
「派手さ」で日本人欺いたソ連スパイ、ゾルゲ
その切り札となったのがリヒャルト・ゾルゲ(1895〜1944)である。
彼はドイツの通信社特派員として来日し、ナチス党員という立場を利用して日独の政府関係者から信頼を得た人物だが、その正体はソ連で訓練を受けた筋金入りのスパイであった。快活で社交的、大酒呑(の)みで女性関係も派手。一般的に情報部員は地味で目立たない方が好ましいとされるが、ゾルゲは極端に目立つことで敵を欺いた。
その最大の功績は、日米開戦の情報をつかんだことである。つまり、日本はソ連には侵攻しない。当時ドイツと死闘を繰り広げていたソ連は、この情報に基づいて極東地域の戦力を西へ振り向け、戦争に勝利する。しかし、ゾルゲ自身はその勝利を見届けることはなかった。1944年、日本の官憲に逮捕され、死刑を執行されたからである。彼の墓所は東京の多磨霊園にあり、今もロシア大使館関係者が墓参に訪れる。
関連記事
- コンビニおでん「無断発注」「販売中止」問題が暴く画一的ビジネスの限界
冬のコンビニの人気商品・おでんに異変。無断発注問題や店舗によっては販売休止の動きも。オーナーへの生々しい現場取材を通じてその真因を追う。 - 『ポプテピピック』の竹書房、米IT大手に著作権訴訟を挑む訳――日本漫画、世界の海賊版へ反撃の狼煙
『ポプテピピック』の竹書房が米ITに著作権訴訟を提起。背景には海賊版サイトに苦しむ日本漫画界の反撃が。遅ればせながら取ったその“反攻”の意義と展望を読み解く。 - 脱24時間で息吹き返したセブン加盟店、密着ルポで迫る「時短営業の意外な現実」
コンビニ業界に脱24時間化の激震が走る。最大手・セブンのとある時短実施店に筆者が密着ルポ。意外な実像から浮かび上がる「コンビニの未来像」とは。 - Slackで昭和の“化石マナー”押し付け……日本企業はなぜIT新サービスを改悪するのか
Slackで謎の「昭和風マナー」が押し付けられていると話題に。これまでも日本企業はこうしたIT導入に失敗してきた過去が。新システムを「日本型」に変えガラパゴス化することに。 - 断捨離で人はなぜ“人生リセット”したがるのか――「自己啓発と意識させない自己啓発」ブーム
息の長いブームが続く断捨離、「片付ければ人生も変わる」という言説が多い。筆者はそこに巧妙な「自己啓発」のメソッドをみる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.