アマゾンを超越し続ける「ザッポス」という存在(2/4 ページ)
今から10年ほど前に『ザッポスの奇跡』という本を書いた。当時、アメリカのビジネス界に旋風を巻き起こしていた「ザッポス」という靴のネット通販会社の「企業文化戦略」についての本だ。ザッポスはどのようにして、あのアマゾンに「負け」を認めさせるに至ったのか。
アマゾンが屈した史上最強の顧客主導型企業とは?
さて、ザッポスは私が最初の「ザッポス本」の出版に向けて今まさに最終稿を仕上げようとしていた2009年の7月に「あの」アマゾンに買収されることが発表された。「買収」というと、大きなものが小さいものを食らうことだと、つまり、「買収されたほうの負け」だと解釈する人が多い。だが、この場合は違った。買収のニュースを聞いた時、私ははっとした。「あのアマゾンが負けを認めた」と思ったからだ。
このロジックを理解するには、まず、当時の市場背景を知る必要がある。
ザッポスが先駆者となった「靴のネット通販市場」には、アマゾンも2007年にエンドレス・ドット・コム(Endless.com)という靴とアクセサリーに特化した別サイトを立ち上げて参入している。それまで、アマゾン・マーケットプレイス内でのカテゴリー拡張という形で市場開拓していたアマゾンが、「別サイト」を立ち上げたということからも、靴のネット通販市場制覇にかけた意気込みがうかがい知れる。
しかし、アマゾンは、この市場でどうしてもザッポスに「勝つ」ことができなかった。靴のネット通販という、ザッポスが起業した1999年当時には誰も投資しようとしなかった「ありえない」ビジネスにおいて、2007年までには、ザッポスは圧倒的優位を築いていたからである。
靴をネットで買う「心理的ハードル」を越えさせる驚嘆のサービスの数々
もとより、靴をネットで買うことに関する心理的障壁は高い。普通に考えて、靴というのは「試着せずには買えない」商品である。でもネットでの買い物とは「バーチャル」な世界である。手元に届く商品は本物でも、それを選ぶプロセスはバーチャルである。
靴というのはブランドによって「フィット」がまったく違う。幅が広い靴もあれば、狭い靴もある。素材の硬さ、柔らかさ、インソールの感じ……。靴によってそれぞれ個性があって、履き心地がまったく異なるのだ。それをどうやって、試着せずに買えというのだろう。
そんな「心理的ハードル」を超えさせるために、ザッポスはその仕組みにあらゆる工夫を凝らした。
まず、ネットのお買い物でも「試着」ができるように、送料も返品もタダにした。しかも返品は外で履かなければ購入から365日間OKである。「念のために、自分が『これ』と思うサイズと、そのひとつ上のサイズと下のサイズ、つまり3通り全部オーダーしてください。そして自宅で『試着』していただいて、合わないものはすべて返品していただいて結構です」と、ネットでの新しい買い方をもってして顧客を促したのだ。
でもそればかりではない。靴を買うには相談する相手が欲しいだろうと、コンタクトセンターを大々的に運営した。24時間営業、年中無休のコンタクトセンターである。2004年に、それを実現するために、本社をサンフランシスコから、「眠らない街」ラスベガスへと移転した。年商200億円にも満たない「ネット通販会社」が24時間営業年中無休のコンタクトセンターを運営する。どう考えても正気の沙汰ではないように思えた。
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