米国株はいま買いなのか?:KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大懸念から、世界の株式市場が揺れ動いている。例えば米株価指数は、2019年の上昇のかなりの部分を帳消しにした。それでも、世界の中でとりわけ米国株は良い投資先なのか。
株主への分配が適切
株式会社を中心とする米国の資本主義がうまくいっているもうひとつの理由は、リターンの分配だ。米国企業は、自社株買いでリターンの多くを株主に分配している。前述したような、政治情勢、あるいはウイルス感染など外的ショックがあっても長期的に株価が回復する理由は、株主に対して企業が適切なリターンを提供する傾向にあるからだ。
米国のGDPが過去約30年で4倍弱となっている一方で、株価指数は約10倍に上昇している。この違いは、いくつかの理由で説明される。
まずGDPと株価指数は直接関係ない。なぜかというと、GDPの構成の内、企業収益(営業余剰)だけが株価(企業価値)に影響し、重要な部分を占める給与の増加(インフレの影響が企業収益も給与も同じだとすれば、労働生産性改善による雇用者報酬の成長)は、株価に影響しにくい。
次に重要な要因は、企業の収益が株主のリターンに適切に反映されやすいことだ。仮に政治や外部要因で経済が停滞し、設備投資などの需要が減れば、企業は自社株買いや配当でリターンを分配する。そのような場合でも、企業は、現金を溜め込んでROEを低下させたりしない傾向にある。つまり、株主への分配が適切であれば、株価は無駄に割安に放置されない傾向にある。
このことは、米国主要企業が「株主第一主義」を見直すと宣言した(2019年8月20日付日本経済新聞)こととは関係ないとみている。
確かに民主党左派の一部は、自社株買いと経営者報酬のつながりについて批判している。これはごく一部の米国企業経営者が株主の短期的な利益追求と結託した可能性への反省ともつながっている。しかし、批判の矛先は自社株買いそのものではなく、経営者が株価にリンクした報酬の比率を高め、不適切な負債の増加やコスト削減で一株当り利益を高めて、すぐに株式オプションを行使するなどして報酬を獲得したことに対して向けられている。
経営者と従業員の収入格差拡大が、不適切な報酬システムによって実現しているとすれば、修正が必要だ。しかし、富裕層が獲得するリターンを社会に還元する方法は、自社株買いの禁止ではなく、所得税制の変更となるはずだ。米国の経営者は、これまで以上に環境改善を含む社会課題解決による売上拡大やコストなどの削減に取り組むだろうが、株主への適切な分配を減らすことが良いことだという主張は強まらないだろう。
このように考えると、引退後の潤いのあるくらしを目的に長期投資するに当たって、世界の資本主義の中心である米国株式は、投資家のリスク許容度に応じてポートフォリオに組み入れて良いだろう。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
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