議員“マスク転売問題”から考える、転売ヤーの利益の源泉:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
"転売ヤー”が転売を正当化する論拠は、「需要と供給のバランスが崩れた価格設定となっているため、市場原理に則って価格をさや寄せしているにすぎない」というものである。需給バランスの偏りに根ざした正当なものだという主張があるが、その実態は消費者の信頼を換金しているにすぎない。
静岡県議会の諸田洋之議員が、オークションサイトでマスクを大量出品していたという問題が物議を醸している。同氏は3月9日までに888万円を売り上げたことを告白したが、その行為が「転売」にあたることについては最後まで否定した。これは政府が「マスクの買い占めや転売に罰則を設ける方針」を決定した矢先の出来事で、公の立場にある人物がこれに逆行するような行動をしていた点に批判が集中した。
現在、同氏は出品こそ取りやめてはいるが、15日のマスク転売違法化の動きもあってか、オークションサイトでは在庫処分的な出品も目立つようになった。仮にマスクの転売が止んでも、今後も規制の手が及んでいない商品が次の転売ターゲットになる可能性がある。道徳観・倫理観からいえば、窮状につけこむような転売は許されない。しかし、なぜ転売は止まないのだろうか。
市場原理と道徳観の対立
"転売ヤー”が転売を正当化する論拠は、「需要と供給のバランスが崩れた価格設定となっているため、市場原理に則って価格をさや寄せしているにすぎない」というものである。件の県議も「オークションの出品価格は1円からスタートしている」点や、「原価率は50%程度であり、暴利ではない」という点を強調し、「市場原理に任せた結果、高額になってしまった」という趣旨の主張をしている。
確かに、この種の主張は道徳的な不快感こそ抱けども、資本主義における市場原理のもとではやむを得ない面があることも否定できない。現実に「市場価格よりも高く購入する者が存在する」という事実もある。他の分野でも、例えば、「一定の料金を払えば並ばずにアトラクションを楽しむことができるチケット」といった、どんな人でも公平に列に並ぶという道徳観を、市場原理で歪(ゆが)めているといえば歪めているような商品も世の中にはありふれている。
しかし、マスクの製造業者や小売店のほとんどは、価格を上げず、過剰な需要を抑制し、供給量の確保に全力をあげている。そのような事実から考えれば、公共性や倫理観だけでなく、単純に経済合理性で考えても、必ずしも需給バランスの偏りを価格に上乗せすることが正しい戦略というわけではないことが分かる。
それでは、このような状況下で値上げをするか、供給を確保して価格上昇を抑制するかのいずれが好ましいのだろうか。今回はプロスペクト理論から考えてみよう。
関連記事
- 炎上「宇崎ちゃん」献血コラボ継続の影で、ラブライブのパネルが撤去されたワケ
静岡県沼津市のJAなんすん(南駿)と人気アニメーションの「ラブライブ!サンシャイン!!」コラボが物議を醸している。女性のイラストに抗議が殺到するという構図は、日本赤十字社と人気漫画「宇崎ちゃんは遊びたい」がコラボした「献血ポスター」の事例が記憶に新しい。本稿では日本赤十字社側がなぜ抗議を受けても方針を変えず、JAなんすん側は抗議で方針を変えたのかをビジネス面から検討していきたい。 - コロナウィルスで打撃を被るのは「製薬会社」となり得る意外なワケ
不謹慎だと思われる方もいるかもしれないが、株式市場では、早速「コロナウィルス関連株」の物色が始まっている。特に、今後需要が見込まれるマスクや医療廃棄物を手がける会社の株価は、ここ2週間で大きく増加した。 - 新型肺炎でマスク買い占めを「あおる」のは誰? 心理メカニズムに迫る
連日報じられる新型コロナウイルス問題。特に「マスクの品薄、買い占め」が話題に。消費者を買い占めに走らせる心理メカニズムを分析した。 - メルカリ、衛生マスク出品を一律禁止 悪質転売防止の政令規制受け
メルカリが衛生マスクの出品を一律禁止に。新型コロナウイルスで悪質な高額転売が横行し、政令による規制が決定したため。 - マスクと消毒液の生産状況を経産省が公表 転売目的の購入を控えるよう呼びかけも
品薄状態が続くマスクと消毒液。経産省が最新の生産状況を2月27日に公開。転売目的での購入も控えるよう呼びかけた。 - トイレットペーパーを「買い占める」ほうが“合理的”であるシンプルな理由
全国各地の小売店で紙製品が入手困難な状況が続いている。デマと判明しても続く買い占め行動。これを「大衆の愚かな行動」と断じるメディアが多いが、果たして本当にそうだろうか。倫理的には褒められたものではないが、経済学の観点からいえば買い占めに走る行動がむしろ当然で、「買い占めないほうが非合理的である」といっても過言ではない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.