53年排ガス規制との戦い いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 2:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
第1回に引き続き、内燃機関(ICE)の仕組みについて。今回はガソリンエンジンに話題を絞って、熱効率の改善と排ガス浄化がどう進んでいったかの話をしよう。まずは、そうした問題が社会で重要視されるまでは、どんなやり方だったのかというところから始め、排ガス規制への対応の歴史を振り返ってみたい。
昔のエンジンの無茶な仕様
さて、変速機があるからといってあらゆる場面をカバーできるわけではない。できればエンジン本体に粘ってもらいたい局面もある。あと少しだけ加速したいとアクセルを踏むと、いきなりキックダウンして思った以上の加速をするのは、ドライバーにとって不快である場面が多いのだ。
では、粘るのが難しいのはどんな局面だろうか? いろんなシーンがあるが、代表的なのは低回転・高負荷のケースだ。回転が低いときでも吸気管の断面積は変わらない。となると、吸気の流速は下がってしまう。霧吹きの原理を使うキャブレターでは、息をゆっくり吹いたときと同じで、霧が十分に細かくならない。「しぶき」のような荒い粒になってしまう。こういう状態を「霧化が悪い」というが、それでは空気とよく混ざらないので、着火しても燃え残る。
燃え残るということは、空気に対してガソリンが足りなくなってパワーが出ない。こういう問題は、「だったらもうその分を見越して余分に吹いてしまえ」という乱暴な考え方で解決されていた。霧化が悪くて2割燃え残るならそれを踏まえて、最初から2割増で吹けばいいという、今では考えられない無茶が行われていた。
しかも燃焼室に可能な限り大量の新気を入れて、大量のガソリンを燃やしてやるためには、前のサイクルで燃えた排ガスを出来るだけ一掃したい。だったら新しい混合気でところてん式に押して出してしまえということで、吸気が始まっても排気バルブをしばらく開けていた。吸気弁と排気弁が両方開いている状態をバルブオーバーラップという。バルブオーバーラップを大きく取れば、生ガスが排気管から出て公害になるが、引き換えに燃え終わった不活性ガスを燃焼室から完全に追い出せる。
昔のエンジンに名機といわれるものが多かったのは、エンジンのパワーバンドを広げるために、こういう無茶ができたからで、排ガス規制が進むにつれ、だんだんその手が使える領域が狭まっていった。
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