53年排ガス規制との戦い いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 2:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
第1回に引き続き、内燃機関(ICE)の仕組みについて。今回はガソリンエンジンに話題を絞って、熱効率の改善と排ガス浄化がどう進んでいったかの話をしよう。まずは、そうした問題が社会で重要視されるまでは、どんなやり方だったのかというところから始め、排ガス規制への対応の歴史を振り返ってみたい。
排ガス規制との戦い
国内においては、昭和48年・50年規制で実質的な規制が始まり、48年の規制値に対して50年規制では、一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)は約10分の1、NOx(窒素酸化物)は半分に下げることが求められた。ちなみにxはOが結合した数を表す。普通の分子のように数が安定しないためxが用いられる。3年後の53年規制では、NOxも10分の1に規制された。48・50・53年と続く規制はほぼ一括りのものと考えていい。
問題は3つある。最初の2つがそもそも相反している。COとHCは酸素(O)を足してやれば解決する。CO2とH2Oになってくれるからだ。だから燃料を薄くしてやればいいのだが、そうすると今度はNOxが問題になる。こちらは余分な酸素が本来安定している窒素(N)と熱反応で化合してしまうのだから、酸素が余ってはいけない。
多くのメーカーは、窮余(きゅうよ)の策として、燃焼を2段階に分けた。メインの燃焼ではNOxが出ないことを優先し、COとHCの対策としては、排気管にもう一度ポンプで空気を送り込んだ。新しい空気で再度酸化を促すためで、いわゆるサーマルリアクターである。NOxが生成されるためには極めて高い温度が必要なので、排気管の燃焼ガス程度の温度なら酸素がいくらあってもNOxはできない。つまりCOおよびHCとNOxの生成要件の温度差を利用したのである。
ただし、NOxほどには温度が必要ないといっても、COとHCの酸化だって化学反応なので温度依存性はある。排ガスがある程度熱いうちに混ぜてやらないと反応効果が下がってしまうため、始動直後などはあまり効果が得られなかった。
マツダのロータリーエンジンとスバルの水平対向エンジンは、素養としてNOxの発生が少ないという特徴があったため、サーマルリアクターが非常に有効で、マツダのAP(Anti Pollution)スバルのSEEK-T(Subaru Exhaust Emission Control - Thermal)はドライバビリティをあまり落とさずに対策を成し遂げた。
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