53年排ガス規制との戦い いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 2:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
第1回に引き続き、内燃機関(ICE)の仕組みについて。今回はガソリンエンジンに話題を絞って、熱効率の改善と排ガス浄化がどう進んでいったかの話をしよう。まずは、そうした問題が社会で重要視されるまでは、どんなやり方だったのかというところから始め、排ガス規制への対応の歴史を振り返ってみたい。
インジェクションと酸化還元触媒
新たな救世主は、酸化還元触媒と呼ばれるシステムで、NOxから余分な酸素(O)を奪ってただの窒素(N2)に還元し、そこで奪った酸素をCOとHCに渡してCO2とH2Oに酸化させる。その際、酸素の収支が合わないと酸化もしくは還元ができなくなる。酸素の供給が上回れば触媒が飽和して酸素を受け取れなくなるし、酸素が不足すれば酸化ができなくなる。だから何がなんでも燃料(HC)と酸素の分量が完璧に一致する理論空燃比でないとまずい。
これが可能になった裏には2つの技術がある。1つは、インジェクションによる空燃比のコントロールである。高圧ポンプで燃料を噴射するため、どんな状況でも霧化が良い上に、噴射量をキャブレターより精密にコントロールできる。このシステムには後にO2センサーが追加され、排ガス中の酸素濃度をリアルタイムに測定しながら、燃料の噴射量をコントロールするフィードバック制御が加えられるようになっていく。
もう1つは主役の酸化還元触媒だが、こちらは陶器製で蜂の巣状の「担体」の表面に触媒を塗布したものだ。蜂の巣状にするのは、排ガスとの接触面積を増やしつつ、極力排気の流れを阻害しないためである。問題はこの触媒に白金などの貴金属が使われており、高価であると同時に、高熱に長期間さらされて劣化すること、さらには当時のガソリンに含まれていた鉛でも機能劣化を起こすことだった。
ちなみにガソリンに鉛が添加されているのは、バルブシートの潤滑のためだ。吸排気の管が燃焼室につながる部分に、きのこ状のバルブを設置して吸排気の制御を行うのだが、バルブの傘が当たるシリンダーヘッドの台座側にはバルブシートという部材が圧入されており、磨耗したら交換できるようになっている。とはいえ交換は重作業になるので、できるだけインターバルを伸ばしたい。そこで磨耗を防止するために燃料に鉛を混ぜて、潤滑をサポートしていたのだ。
しかしながら、鉛が触媒の敵であるならば排除するしかない。そこでバルブシートの素材開発を進め、潤滑剤なしでも磨耗を抑えることに成功した。そしてこの無鉛仕様のバルブシートの採用が義務付けられ、これによって、ガソリンに鉛を混ぜる必要がなくなり、有鉛ガソリンは消えていくのである。
なお、触媒も開発が進んでコストが下がった。無鉛ガソリンと安価になった触媒、それにフィードバック制御を加えたインジェクションの揃(そろ)い踏みによって、53年までの排ガス規制をクリアすることに成功したのである。
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