東大卒プロゲーマー「ときど」はいかにして生まれたか――ゲームは毒にも薬にもなる:東大卒プロゲーマー「ときど」の肖像【前編】(4/4 ページ)
17歳のときに世界一の格闘ゲームの大会「EVO」で優勝したトッププレイヤーの1人である東大卒プロゲーマー「ときど」。彼はいかにしてプロゲーマーになり、現在のeスポーツの課題をどう見ているのか。前後編の前編。
ゲームは毒にも薬にもなる
――プロゲーマーの第2の仕事は、インフルエンサー的役割ということですね。
それをやらないと、僕としても後悔すると思います。なぜなら今のような状況は、僕自身が作ったものではないからです。注目が集まらなくなったときには、もう活動を続けられないじゃないですか。だったら注目してもらえているうちに、その注目を持続するために必要なことは、自分からやらないと駄目ですよね。
――日本のeスポーツの進展についてはどう捉えていますか。
今は協会(日本eスポーツ連合)もできましたし、かつて懸念されていた、国内のeスポーツ大会に高額賞金が出せない問題にも解決の糸口が見え始めています。そういう意味では良くなってきているのかなと思いますね。
――近年ではeスポーツを学校の部活に取り入れる動きも盛んです。一方で香川県議会では「ゲームは1日60分まで」というゲーム依存対策の条例が可決されるという動きも出てきています。これらの動きをどう見ますか。
部活に取り入れられるのは本当にいいことだと思いますね。ただ、指導者がまだ少ないのが問題です。
例えばニュースで、「ゲームをやっていると学力が低下する」というアンケート結果が出たりしますが、これは当然だと思います。もちろん、ゲームはプレイヤーが熱中しやすいように作られたものなので、そういう一面は確かにあると思います。しかし、一生懸命ゲームに取り組むことによって、とてもいい仲間たちと出会えたり、攻略を考える上で発想力や数的能力が必要なので、そういう能力も培っていけたりします。ゲームは毒だけでなく薬にもなり得るのです。
それこそゲームに限らずスポーツや部活にのめり込めば、学力が下がるのはある意味で当然なわけですが、他のスポーツや部活がそういった批判に晒(さら)されにくいのは、きちんとした指導者がいるからだと考えています。
――ときどさん自身は指導者になる道は考えていないのですか。
まだそこまで考えられていないというのが正直なところです。というのも、eスポーツってまだ安泰とは言い難いですし、いつこの熱がさっと引いてしまうかは誰にも分かりませんから。
ただ、今後もeスポーツそのものの盛り上げに貢献するという意味で言えば、その一つとして指導者というのはありかもしれないですね。ゲームでこんなに真剣になって頑張っている人がいるんだということを世の中の人にもっと知ってもらうために、いつか指導者という道を考えるようになるのかもしれません。
――ときどさんにとってゲームとはどんな存在なのですか。
真剣にやる価値のあるものだと捉えています。そういう意味では、かつての僕はゲームをなめていたのだと考えています。プロになってスランプに陥るまで、僕は一個一個のタイトルに集中せずに、4つや5つのタイトルを並行して取り組んでいました。
今は「ストリートファイター」に集中して取り組んでいますが、「ストリートファイター」だけでも、やろうと思えばまだまだ全然できるところがあって、それを実現する過程で本当にいろんなところまで深く考えなきゃいけないんですよ。ゲームってやり込みがいのあるものなんだと思います。だから「ゲームって結構いいもんなんだよ」ということをもっと多くの人に知ってもらいたいですね。
後編では、ときどさんがいかにしてスランプを乗り越えたかに迫ります。ウメハラさんから掛けられた言葉など面白い内容になっています。お見逃しなく!
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