株価の下値めどとシナリオ 米国の8週間程度の活動自粛を織り込む金融市場:KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)
仮に、5月10日ごろまで事実上の外出禁止を含む自粛ムードが続いた後、全米でウイルス収束の兆しが見え、2020年7−9月期に主要都市で経済活動が正常化に向かうのであれば、現在の日米株価指数の水準は、今後8週間は中止または延期のシナリオと整合的だと考える。
回復へのシナリオは?
メイン・シナリオ:
5月ごろにウイルス収束への期待が高まり、7−9月から景気回復し、10−12月に経済が正常化するケース。企業などの資金繰り懸念など金融システムの不安定性は限定的で、元来健全な経済状態であったことから、消費者センチメントと雇用の改善が進むにつれ、経済は緩やかに正常化(U字型回復)。
ポジティブ・シナリオ:
5月ごろにウイルス収束への期待が高まり、世界的な金融緩和政策と財政発動が想定以上の効果をもたらし、10−12月に向けて経済は急速に回復(V字型回復)。
リスク・シナリオ:
世界的にウイルスの感染拡大が続き、感染防止策が1年以上継続される場合、一部で企業などの資金繰り悪化が起こり、リーマン・ショック並みの景気後退と株価指数が下落する可能性(L字型低迷)。
結局のところ、金融市場がどのシナリオを選ぶかは、
- 日米欧先進国の政府や消費者が、ウイルスが収束したと確実に感じるのはいつごろか
- 金融政策の効果は限界が見える中、先進各国は財政政策で景気の落ち込みを十分にカバーできるのか
にかかっている。市場のコンセンサスは、CDCの現状の意見などを参考として、夏ごろまでに収束への期待が高まり、財政政策の支援などで、年末へ向けて経済は緩やかに回復する、というところだろう。そうであれば、現水準が株価の底値圏で、今後は回復を見込むことになる。逆の視点からは、株価の現水準はメイン・シナリオを織り込んでいるといえる。
ただし、各国の事情もあり、例えば日本の場合、世界経済が年内に正常化に向かうとしても、消費税増税の影響を受けた後に、東京五輪・パラリンピックの開催が延期され、インバウンド需要を含む国内需要が失えば、実質GDPのマイナス成長をさらに押し下げる恐れはある(ただし、21年の成長は20年のマイナス分がプラスとなる可能性あり)。
シナリオが動くきっかけは何か?
今後の注目点として、(1)まず中国のウイルスが収束し、正常化に進むこと(今後の収束への道筋が考えやすくなる)、(2)日・米・欧の財政政策が、適切な規模、適切な時期に実行されること(緊急時なので明確なスケジュールは見えないが、例えば、日本や米国で個人への現金給付や消費税を含む減税などが議会・国会で審議され実行されること)、(3)感染者数の増加に歯止めがかかり、治癒者が増えることから、各国政府が個人や組織の行動制限を減らし始めること、の3つがあると考えている。当面は、(1)と(2)が進むことに期待している。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
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